【コラム】(財務モデリングの最先端)第5回 フォーマットはなぜ重要か(2)

2019.12.20 連載コラム

ナレッジパートナー:川井 文哉


計算をチェックするコストは高い

第4回目のコラムにおいて、財務モデルにおけるフォーマットは、道路における信号機の色の役割と同じで、皆が同じフォーマットを同じルールと認識することが重要であり、これをおざなりにすると大事故を起こす可能性があることについて述べた。今回は、前回に引き続きフォーマットの重要である理由について続けて解説を行う。

前回のコラムでは、フォーマットを徹底することで、財務モデル構築の際の計算のミスを事前に防ぐことができる、という点について述べた。そこで皆さんには、仮に計算が完璧に正しいと保証されていれば、フォーマットは重要ではないと言えるか、ということを考えていただきたい。つまり、フォーマットが統一されていないと、ミスに気付きにくいだけで、100% 計算ミスがない自信があればフォーマットは汚くても良いのか、と言い換えることができる。本コラムの趣旨から察していただけると分かる通り、筆者の考えとしては、仮に100% 計算ミスがなかったとしても、フォーマットは重要だ。なぜなら、計算ミスがないことは結局のところ第三者によって保障されなければならず、誰かが必ずチェックをしなければいけないからだ。チェックの際にフォーマットが統一されていなければ、ルールを確認するために膨大な労力と時間が追加的に発生してしまう。つまるところ、コミュニケーションコストがかかってしまうのだ。ここで述べるコミュニケーションコストは、概念的なものではなく、実際に PL として発生するコストのことだ。例えば、社内の誰かにチェックを依頼すれば、彼・彼女のチェックに消費する人件費は会社が負担しなければならないし、外部のコンサルタントにチェックを依頼すれば、業務委託費としてかなりの額を請求されることになる。実際、筆者が在籍していたモデリングチームでも「財務モデルのレビュー」という依頼が年に数件はあり、財務モデルの計算量によっては数百万から一千万円を超える請求額となっていた。このように、「コミュニケーションコスト」とは本当の意味でのコストなのだ。

財務モデルにおけるチェックが容易な項目の順番

また、フォーマットそのものが重要というよりも、少し違った観点からフォーマットを統一する意識が重要という話をしておきたい。筆者の経験上、正しいフォーマットのルールが守られていない財務モデルは、99% の確率で計算が間違っている。これは精神論ではなく、考えてみれば当たり前のことだ。財務モデルにおいては、要素ごとにチェックが容易な順番があり、それぞれ並べると①フォーマット、②アウトプット数値、③入力前提値、④計算ロジック、の順となる。

最もチェックが簡単なのが①フォーマットであり、理由は簡単で「見れば一目で分かる」からだ。次に容易なのが②アウトプット数値で、事業数値と自身の肌感覚を比較できるので、チェックしやすい項目だ。明らかに一部の費用が小さ過ぎたり、税金が高すぎたりすれば、違和感を持つことはそんなに難しくないだろう。3番目にチェックしやすいのが③入力前提値だ。これは、モデルに入力されている前提値に妥当性があるかどうかという問題で、ある程度の事業経験がなければその数値が妥当であるかどうか判別は難しい。そして、最もチェックが難しいのが④計算ロジックだ。これについては1つ1つ事業前提と計算式の整合性を頭を使って判読せざるを得ず、時間と労力をかけなければならない。ここまで読んでいただければお分かりの通り、最もチェックが容易な①フォーマットの時点で間違っているのだから、④計算ロジックが正しい訳がないのだ。実際の財務モデルは①、②、③全て正しくても④だけ間違っているケースなどザラにある。

最初に共通化するフォーマットは非常に重要

ここまでフォーマットを統一することの様々な利点について述べた。しかし、どうしてもフォーマットを変えたい、または既存のフォーマットを改良したいという願望がある人もいるだろう。フォーマットを変えたい場合は、自宅の前の道路に色が異なる信号機を設置することと同じで、非常に大変だ。事故が発生しないよう、またコミュニケーションコストが発生しないよう、関係者に徹底的に周知をする必要がある。具体的には、なぜフォーマットを変える必要があるのかその優位性をチームで議論をし、そのフォーマットを使う場面、定義を明確に定め、凡例や用例を用いた資料を作成し、全社的に展開・周知を行う必要がある。非常に大変なプロセスを経ることになるが、逆にそこまでのメリットがないのであれば、フォーマットは変えない方が良いだろう。信号機の色を今から全世界で違う色にする覚悟がないなら、現状の青・黄色・赤を守るべきだ。つまり、途中から変更することは大変なので、最初に共通化するフォーマットは非常に重要だということだ。

まとめ

ここまで、2回に分けたコラムで「なぜフォーマットが重要か」という点について解説を行った。まとめとしては、フォーマットはただの色使いデザインなどではなく、信号機などと同じルールそのものであり、守らなければ様々な事故を引き起こす可能性があると一方、ルール通りに運用すればコミュニケーションコストを減らすことができる。具体的な財務モデルのフォーマットルールについては、別の機会に解説をさせていただきたい。

東京モデリングアソシエイツ株式会社
マネージングディレクター
川井 文哉

*アイキャッチ Photo by Andrew Ridley on Unsplash

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