【コラム】(プロファイバンカーの視座)第85回 キャッシュフロー・コントロール手法(36) 応用モデル

2021.10.14 連載コラム

ナレッジパートナー:井上 義明


(4)キャッシュ・スイープ(Cash Sweep)続きー返済期間が内部収益率に与える影響

これまでキャッシュ・スイープによるスポンサーへの影響という点を見てきた。特に前々回前回は具体的な事例を用いて数字で説明を試みてきた。そこで採り上げた事例はベースケースが返済期間20年の借入金で、それに対してキャッシュ・スイープを導入した場合は借入金の完済が3年早まり、結果的に17年で借入金を完済すると想定してみた。これら2つのケースは、実は借入金の返済期間が異なる場合にスポンサーにどんな影響を及ぼすのかという点を検証するためにも応用することができる。具体的には、初めから「返済期間が20年の借入金」と初めから「返済期間が17年の借入金」(キャッシュ・スイープの仕組みはない)という2つのケースを比較する場合にも、今回の分析結果をそのまま利用することができる。キャッシュ・スイープの話題からは一旦離れるが、借入金の返済期間が異なるとスポンサーにとってどういう結果になるのかということを比較検討する場合に利用できる。

例えば、ある事業でプロジェクトファイナンスによる借入を検討しているとする。その借入金の返済期間について交渉や分析をしているとする。そのとき例えば「返済期間が20年の場合」と「返済期間が17年の場合」の2つの選択肢があったとする。そして、借入金の返済期間が異なるとスポンサーにとってどんな違いが出てくるのかという点に議論の焦点が当たっているとする。前回まで使用してきた具体的な事例の説明は、実はそのまま「返済期間が20年の場合」と「返済期間が17年の場合」との比較に当てはめて利用することができる。前回までの説明では、借入金の完済が3年早まり返済期間が17年となったのはキャッシュ・スイープの仕組みが働いた結果であった。しかし、キャッシュ・スイープの仕組みは存在しないが借入金の返済期間は初めから17年と定まっているケースと、キャッシュ・スイープの仕組みが働いたために返済期間が17年となったケースとは、結果的に見れば全く同じものである。そこでキャッシュ・スイープの仕組みが働いたために返済期間が17年となったケースを、初めから借入金の返済期間は17年と定まっているケースだと読み替える。そうすると、「返済期間が20年の場合」と「返済期間が17年の場合」とを比較する分析にそのまま応用できる。

さて、ここから借入金の返済期間が異なるとスポンサーにどんな影響を及ぼすのかという点の検証に入ってゆこう。そして「返済期間が20年の場合」と「返済期間が17年の場合」との比較を試みてゆく。利用する数値はこれまで使用してきたものを借用する。そうすると、「返済期間が20年の場合」と「返済期間が17年の場合」とのそれぞれの「支払利息の総額」「配当金の総額」「内部収益率(IRR)」は、次の比較表のように整理することができる。

【返済期間20年と返済期間17年の比較】

上記の比較表は、前回掲載した比較表と実質同じものである。前回掲載した比較表には4行目に「借入金の完済」という一行があったが、上記ではこれを削除している。前回掲載した比較表の上部にあった「ベースケース」を上記表では「返済期間20年」に書き換え、「キャッシュ・スイープ導入後」を「返済期間17年」に書き換えている。表の中の数値は前回の比較表の中の数値と全く同じである。さて、上記の比較表から「返済期間が20年の場合」と「返済期間が17年の場合」との比較の結果を読み解いてゆくと、次の通りである。

  1. 返済期間17年の借入金は返済期間20年の借入金に比べて、レンダーに支払う支払利息の総額が通年でUSD63.1M節約できる(a)。借入金は長く借りれば借りるほど、より多くの支払利息を支払わなければならないので、これは至極当然の結果である。
  2. 返済期間17年の借入金は返済期間20年の借入金に比べて、スポンサーが受領できる配当金の総額は通年でUSD63.1M増える(b)。当該事業から生まれるキャッシュフローは一定なので、レンダーに支払う支払利息の総額が減少すれば、その分スポンサーが受領できる配当金の総額が増えるのもこれもまた至極当然の結果である。
  3. しかしながら、返済期間17年の借入金は返済期間20年の借入金に比べて、スポンサーの内部収益率(IRR)は約2ポイント低下する(c)。この点の理解につまずく方がおられる。内部収益率(IRR)の向上には、スポンサーが受領できる配当金の総額を通年で増やすだけでは効果が薄く、スポンサーが早い時期に多くの配当金を受領することが必要である。なぜなら、内部収益率(IRR)の向上には配当金の現在価値を増やす必要があるからである。

キャッシュ・スイープを導入した場合の分析の数値を借用して、借入金の返済期間が異なる場合にスポンサーにどんな影響を及ぼすのかという点を検証してきた。その結論をまとめておこう。上記から明らかな通り、借入金の返済期間を短くすると、スポンサーの内部収益率(IRR)は低下する。これを一般的に言い換えれば、「スポンサーの内部収益率(IRR)を向上させるためには、借入金の返済期間は長ければ長い方が良い」ということになる。

プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明

*アイキャッチ Prague, Prague, Czechia

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