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【コラム】(インフラプロジェクト事業開発・運営の現場から)第19回 プロジェクトカンパニーの税務(1)

2019.10.17 連載コラム

ナレッジパートナー:桶本 賢一


 第12回から第18回のコラムでは、間に2019年上期の総集編(第13回)や、TICAD 7(第7回アフリカ開発会議)関連の話題を挟みながらも、基本的にはインフラのプロジェクトカンパニーにおける会計関連の話題を取り上げた。伝統的な日本の会計基準と、国際会計基準(IAS)および国際財務報告基準(IFRS)の違い、ヘッジ会計やBOT(Build Operate Transfer)案件に特有の会計基準(IFRIC第12号)の概要、留意点等である。

 会計にあまり馴染みのない読者の方にとっては、特にIFRSやIFRIC関連の話題は、とっつきにくいと感じたかもしれない。しかしながら、会計基準および会計上の利益は、インフラプロジェクトの収益性の評価の指標の一つとして、避けて通れないアイテムである。にもかかわらず、標準的なプロジェクトファイナンスのテキスト等においては、プロジェクトカンパニーの会計関連の実務に関する記載は限定的であると言わざるを得ない。

 これはプロジェクトファイナンスのシニアレンダーや、エクイティIRR重視のエクイティ投資家にとっては、会計上の利益よりもキャッシュフロー(絶対額およびDSCR(Debt Service Coverage Ratio)やエクイティIRR等のキャッシュフロー関連指標)の方が重要だからである。加えて、案件によって適用される会計基準が異なり、また会計基準(特に適用されるIFRS)の見直しが継続的に行われているため、一般化した記述も困難なためと推察される。本コラムが、インフラのプロジェクトカンパニーの会計実務の入り口として参考になれば幸いである。

 今回および次回は、会計関連からは離れて、プロジェクトカンパニーにおける税務について考察してみることとしたい。

プロジェクトカンパニーが負担する各種税金

 一口に「税金」と言っても、プロジェクトカンパニーが負担する税金にはいろいろな種類があり、プロジェクトカンパニー所在国の税制や、特定産業・プロジェクトへの税制優遇措置等によって異なる。とはいえ、あえて一般化すれば、主な税金として、プロジェクトカンパニーの利益(過去のコラムで取り上げてきた会計上の利益ではなく、税務上の所得)に対して課税される法人所得税(Corporate Income Tax、CIT)と、プロジェクトカンパニーが財・サービスを購入する際に課税される付加価値税(Value Added Tax、VAT)があげられる。

 これに加え、レンダー(シニアローンや株主劣後ローン)に対して支払う利息に対して課税される源泉税(Withholding Tax、WHT)も、免税措置がない場合には大きな負担になり得る。なおプロジェクトカンパニーの役職員の報酬・給与等に対して課税される個人所得税(Personal Income Tax)は、税制によってはプロジェクトカンパニーが、雇用者として源泉徴収および納付の義務を負う場合があるが、実際に納税額を負担するのは役職員である。

源泉税に関する契約書上の規定

 財またはサービスの購入にかかる源泉税については、契約書上でどちら(売り手/買い手)が負担するかを規定しておくことが肝要である。プロジェクトカンパニーとしては、財またはサービスの売り手が源泉税を負担する方が望ましいのは言うまでもないが、交渉の余地なく、あるいは交渉の結果次第で、プロジェクトカンパニー(=財またはサービスの買い手)が源泉税相当額を負担せざるを得ない場合もあるであろう。

 具体的な例として、プロジェクトカンパニーが購入する財またはサービスの価格が100、VAT税率が15%、源泉税率が10%のケースを見てみよう。売り手との契約において、売り手が100のネット手取り額を維持出来るような条項=Tax Gross Up条項がある場合とない場合の、プロジェクトカンパニーの支払額の違いは以下の通りとなる。

〇Tax Gross UP条項がある場合 

VAT前の価格100/(1-10%) = 111.11
源泉税額111.11 * 10% = 11.11
VAT後の価格111.11 * (1+15%) = 127.78
売り手への支払額127.78 - 11.11 = 116.67(うちVATは16.67)
VAT支払い後の売り手のネット手取り額116.67 – 16.67 = 100
 

〇Tax Gross UP条項がない場合 

VAT前の価格100
源泉税額100 * 10% = 10
VAT後の価格100 * (1+15%) = 115.00
売り手への支払額115.00 - 10.00 = 105.00(うちVATは15.00)
VAT支払い後の売り手のネット手取り額105.00 – 15.00 = 90
 

 プロジェクトカンパニーとして、Tax Gross Up条項を受けざるを得なかった場合には、売り手の手取り100を維持するために、買い手の総負担額は127.78になる。一方でGross Up条項を避けられた場合、売り手の手取りは90まで減少し、買い手の総負担額は115で済む。このようにTax Gross Up条項の有無によって、プロジェクトカンパニーのキャッシュアウトフローには大きな影響が出る。

 なおクロスボーダーの支払になる場合には、プロジェクトカンパニーの所在国(=支払いを行う国)と、財またはサービスのプロバイダーの所在国(=支払いを受ける国)の間での租税条約によって、源泉税率が異なる可能性がある。上記の例で言えば、国内取引であれば源泉税率が10%だが、A国向け支払いであれば、源泉税率は5%で済む、といったようなケースがこれに該当する。

(この稿続く)

注)本稿の内容や意見は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。
  コラムで取り上げて欲しいテーマがあれば、プロフィールに記載の連絡先まで個別にご連絡下さい。

桶本賢一

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デロイト トーマツ|インフラ・PPPアドバイザリー(IPA)
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