【コラム】(プロファイバンカーの視座)第91回 キャッシュフロー・コントロール手法(42) まとめ3

2022.01.13 連載コラム

ナレッジパートナー:井上 義明


キャッシュフロー・コントロール手法の応用モデルの1つ目はキャッシュ・デフィッシャンシー・サポート(Cash Deficiency Support)である。英語の頭文字を取ってCDS(シー・ディー・エス)とも呼ぶ。キャッシュ・デフィッシャンシー・サポートとは、事業会社のキャッシュフローが不足した際に出資者(スポンサー)が追加で資金を拠出することである。通常出資者が拠出する資金の金額には上限が設定される。出資者が複数存在する場合には、その上限金額を各出資者の出資割合に応じて拠出義務を按分して負担する。また上限金額は資金拠出の累計金額の上限である。資金拠出の回数は1回とは限らず2回3回という場合もあるので、上限金額は累計金額の上限を意味するのが普通である。また、資金の追加拠出方法は出資金のかたちが普通ではあるが、劣後ローンのかたちを取る場合もある。プロジェクトファイナンス・レンダーは通常シニアレンダーの立場なので、出資者が劣後ローンのかたちで資金を拠出した場合、その劣後ローンの利息や元金の支払いの順位は配当金の支払いの順位に準ずるのが普通である。つまり、出資者による追加の資金拠出は出資金のかたちでも劣後ローンのかたちでも構わないが、事業会社から資金を回収する場合(出資に対する配当金支払いと劣後ローンの元利金支払い)には一律配当金支払いと同順位の取り扱いとなる。なお、キャッシュ・デフィッシャンシー・サポートの付いたプロジェクトファイナンスはもはや100%のノンリコース・ローンではない。リミテッドリコース(limited recourse)・ローンと呼ぶ。

キャッシュ・デフィッシャンシー・サポートが必要なプロジェクトファイナンス案件とはどんな案件なのか。具体例としては石油精製事業と石油化学事業が挙げられる。なぜ石油精製事業と石油化学事業はキャッシュ・デフィッシャンシー・サポートがよく用いられるのか。それはどちらの事業も短期間では原料の価格と生産物の価格とが並行して上下しない(パラレルに動かない)からである。原料の価格と生産物の価格が並行して上下しない(パラレルに動かない)のは、原料の需給関係と生産物の需給関係が同じではないからである。そのために石油精製事業も石油化学事業もキャッシュフローが安定していない。こういう事業特性のために、石油精製事業と石油化学事業に対するプロジェクトファイナンスではキャッシュ・デフィッシャンシー・サポートがよく用いられてきた。

キャッシュフロー・コントロール手法の応用モデルの2つ目はクローバック(Clawback)である。プロジェクトファイナンスにおけるクローバックとは、スポンサー(出資者)が事業会社から受領した配当金を、事業会社の資金繰りが厳しくなったときに事業会社に返還することである。こうすることによって、事業会社が万が一キャッシュフロー不足に陥ったときにその不足を補うことができる。クローバックは事業会社のキャッシュフロー不足を補うのが目的なので、その点ではキャッシュ・デフィッシャンシー・サポートと同じ目的を持っている。さらに資金を拠出する者はいずれの場合もスポンサーであるという点も同じである。つまり、両手法の目的と資金拠出者は同じである。

クローバックはこれまでに事業会社が支払った配当金の累計額の範囲内でスポンサーに返還を求めることができるものである。従って、配当金の支払いがまだほとんど行われていなければ、スポンサーに返還を請求できる金額も僅少に過ぎない。例えば、事業の操業開始直後の時期に事業会社が資金繰りに窮したとしても、スポンサーからの資金拠出はほとんど期待できない。クローバックは配当金の支払い実績が積み上がってこないと機能しない。一方、キャッシュ・デフィッシャンシー・サポートは、操業開始直後であろうと合意している上限金額の範囲内であれば、事業会社はいつでもスポンサーに資金拠出を要請できる。こういった両者の違いから、プロジェクトファイナンス・レンダーはクローバックよりキャッシュ・デフィッシャンシー・サポートの方を選好する。逆に、スポンサーはいずれかの方策で事業会社の資金繰り支援を約束せざるを得ないとしたら、キャッシュ・デフィッシャンシー・サポートよりクローバックの方を選好する。クローバックはこれまでに受領した配当金を事業会社に返還するものなので、新たな資金を追加的に拠出するキャッシュ・デフィッシャンシー・サポートよりスポンサーの負担は少ないからである。(次回に続く)

プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明

*アイキャッチ Photo by Colton Sturgeon on Unsplash

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