【コラム】(プロファイバンカーの視座)第87回 キャッシュフロー・コントロール手法(38) 応用モデル

2021.11.11 連載コラム

ナレッジパートナー:井上 義明


(4)キャッシュ・スイープ(Cash Sweep)続きー内部収益率と配当金の現在価値

前回から内部収益率(IRR)と配当金の現在価値との関係を採り上げている。前回は借入金の返済期間が10年となるCase Aという具体例の話をした。そこで今回は借入金の返済期間をCase Aよりも短くしたケースを見てみることにする。借入金の返済期間をCase Aよりも短くしたケースをCase Bとする。Case Bは借入金の返済期間を7年にしておいた。返済期間はCase Aよりも3年短い。このCase Bのキャッシュフロー表は次の通りである。

【Case B】

(*上記画像をクリックすると別ウィンドウが開き、大きな画像で見ることができます。)

このCase Bの主要な点を次にまとめておこう。
【Case B】

返済期間:7年
支払利息の総額:USD62M
配当金の総額:USD302M
配当金の現在価値の合計:USD154.1M (割引率は12%)

このCase Bでは借入金の返済期間をCase Aよりも3年短く7年とした。その結果、レンダーに支払う支払利息(Interest Payment)の総額は10年でUSD84MからUSD62Mに減少し、スポンサーが受け取る配当金(Dividends)は10年で総額USD280MからUSD302Mに増加した。スポンサーが受け取る配当金の総額は増えたが、配当金の現在価値はどうなったであろうか。配当金の現在価値の合計はUSD158.2MからUSD154.1Mに減少している。

Case AとCase Bの主要な点を比較できるように比較表を作成する。そうすると、以下のような比較表になる。

【Case AとCase Bの比較表】

上記の比較表から、借入金の返済期間を10年(Case A)から7年(Case B)に短くすると、次のような結果になることが分かる。

  1. レンダーに支払う支払利息の総額が通年でUSD22M減少する(a)。借入金の返済期間を短くしたので、当然であろう。
  2. スポンサーが受領できる配当金の総額は通年でUSD22M増える(b)。レンダーに支払う支払利息の総額が減少した分、スポンサーが受領できる配当金の総額が増えた。これも当然であろう。
  3. しかしながら、配当金の現在価値の合計はUSD4.1M減少してしまった(c)。これはスポンサーの内部収益率(IRR)が低下していることと同義である。

さて最後の点、配当金の現在価値の合計が減少している点であるが、これはどうして起こるのであろうか。これはCase AとCase Bのキャッシュフロー表をよく見比べて頂くと分かる。例えば、Case Bのキャッシュフロー表の最後の3年間(8年目から10年目)の配当金は毎年USD49Mと大きい。これは借入金が7年で完済されたので、最後の3年間は事業の利益がすべて配当金に回すことができるからである。そのためCase Bの配当金の総額はCase A に比べUSD22M増加し、USD302Mまで引き上がっている。しかし、8年目から10年目の各年の配当金USD49Mを現在価値で見てみると、それぞれUSD19.8M(8年目)、USD17.7M(9年目)、USD15.8M(10年目)とさほど大きくない。ということは、配当金の総額が引き上がってはいても、配当金の現在価値の合計はさほど引き上がってはいない。むしろ結果を仔細に見てゆくと、Case Bの配当金の現在価値の合計USD154.1MはCase Aの配当金の現在価値の合計USD158.2MをUSD4.1M下回っている。Case Bの配当金の現在価値の合計がCase Aの配当金の現在価値の合計を下回っているということは、Case Bの内部収益率(IRR)はCase Aの内部収益率(IRR)を下回っているということになる。Case Bの借入金の返済期間はCase Aの借入金の返済期間より短いので、借入金の返済期間を短くすると内部収益率(IRR)は下がるということである。

実は前々回次のような記述を行っている。「内部収益率(IRR)の向上には、スポンサーが受領できる配当金の総額を通年で増やすだけでは効果が薄く、スポンサーが早い時期に多くの配当金を受領することが必要である。なぜなら、内部収益率(IRR)の向上には配当金の現在価値を増やす必要があるからである」まさに前回と今回は「内部収益率(IRR)の向上には配当金の現在価値を増やす必要がある」という点を説明させて頂いた次第である。そのためには借入金の返済期間は長ければ長い方が良い。

プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明

*アイキャッチ Photo by Jaromír Kavan on Unsplash

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