【コラム】(プロファイバンカーの視座)第138回 プロジェクトファイナンス超入門(2)

2023.12.28 連載コラム

ナレッジパートナー:井上 義明


【プロジェクトファイナンスってなに?】

前回は「プロジェクトファイナンスは事業向け融資である」というお話をしました。繰り返しになりますが、「事業向け融資」という言葉は、「企業向け融資」という言葉を意識して用いています。

ここで借主となる法人について少し触れておきたいと思います。プロジェクトファイナンスにおける借主は通常法人です。この法人は特別目的会社とも呼ばれます。特別目的会社という日本語は英語のSpecial Purpose Company (SPC)を和訳したものです。特別目的会社は、特定の事業を行うために設立される法人です。プロジェクトファイナンスではこの特別目的会社が借主になります。

さて、「プロジェクトファイナンスは事業向け融資である」という説明をして、「企業向け融資」とは異なるというお話をしてきました。しかし、「企業向け融資」でも借主は通常法人(企業や会社)です。上記でプロジェクトファイナンスの借主は特別目的会社という法人であるという説明もしました。つまり、「事業向け融資」であるプロジェクトファイナンスでも、「企業向け融資」でも、借主は法人です。どちらも借主は法人であるというのは、なぜだかお分かりでしょうか。これは事業を遂行するに当たり、事業関係者と商業契約を締結したり、借入のために融資契約を締結したり、銀行に預金口座を開設したりするためには法律行為のできる権利主体(いわば入れ物や器)が必要だからです。法人であれば、商業契約を締結したり、融資契約を締結したり、銀行に預金口座を開設したりといった法律行為をその法人の名において行うことができるからです(注)

一方で、「事業向け融資」であるプロジェクトファイナンスと「企業向け融資」とでは、同じ融資ではあっても、レンダーの実務において大きな違いがあります。レンダーの実務において明らかに違うのは、レンダーの融資審査の方法が違うという点です。レンダーが「事業向け融資」であるプロジェクトファイナンスを審査する方法と、「企業向け融資」を審査する方法とは本当に驚くほど大きく異なります。

まず、後者の「企業向け融資」の通常の審査の方法からお話をしたいと思います。「企業向け融資」の審査は基本的に借主となる企業の財務分析が中心となります。財務分析を行うために、借主となる企業から同企業の財務諸表を手に入れます。レンダーは通常過去3年分の財務諸表を入手して、時系列に財務分析を行います。さらにレンダーは借主となる企業の保有資産も確認します。不動産であれば、不動産登記簿謄本を入手して確認します。保有不動産の時価を試算したりします。そして、借主となる企業の経営陣の経営能力も観てゆきます。さらに借主となる企業の強み・弱み、将来の成長性なども独自に評価してゆきます。つまり、借主となる企業について多面的に分析してゆくわけです。

一方、「事業向け融資」であるプロジェクトファイナンスの場合、融資の審査はどのように進めてゆくのでしょうか。プロジェクトファイナンスにおける借主は特別目的会社です。この特別目的会社はたいがい事業を行うために設立されたばかりです。設立されたばかりですから、過去3年分の財務諸表など存在しません。過去3年どころか、初年度の決算も迎えていないので、初年度の財務諸表もまだ作成できていないはずです。設立されたばかりですから、保有する資産もほぼなにもありません。従って、「企業向け融資」の審査で常道と考えられている借主の財務分析等はそもそも行うことができません。

そこで、「事業向け融資」であるプロジェクトファイナンスの場合、レンダーが行う融資の審査はまったく別な方法で行います。幸いプロジェクトファイナンスでは特別目的会社である借主が行おうとしている事業は特定しています。この事業を評価してゆくのがプロジェクトファイナンスの融資審査の中心になります。事業を評価する一環として、外部のコンサルタントを雇用します。例えば、リザーブ(埋蔵量)・コンサルタント、テクニカル(技術)・コンサルタント、マーケット(市場)・コンサルタント、環境コンサルタントなど外部の専門家を雇用して知見を拝借します。さらに当該事業を支える関連契約書(建設契約書、原料・燃料供給契約書、当該事業が提供する商品・サービスの売買契約書等)の内容も精査してゆきます。キャッシュフロー表を用いて、事業の採算性も検証してゆきます。

【企業向け融資とプロジェクトファイナンス(事業向け融資)のレンダーの審査方法の違い】

注)権利主体とは権利能力のある者のことです。そもそも権利主体になれるのは通常自然人(個人)と法人だけです。自然人は生まれた瞬間に(遺産相続権の点では出生する前からでも)権利主体になり、法人は法律に則って設立することによって権利主体になります。
権利能力のない団体の例として、町内会や同好会などが挙げられます。私が所属する町内会で銀行口座を開設しようとしたとき、町内会の名前だけでは開設することができませんでした。町内会の名前に会長の個人名を加えて、ようやく開設することができました。取引印鑑も会長個人のものです。銀行側はこの銀行口座を会長個人のものと認識しているはずです。町内会は権利主体になれないので(「権利能力なき社団」とも呼ばれています)、その町内会の名前だけでは銀行口座すら開設することができません。

    プロジェクトファイナンス研究所
    代表 井上義明

    *アイキャッチ UnsplashArvydas Venckusが撮影した写真

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