【コラム】(プロファイバンカーの視座)第145回 プロジェクトファイナンス超入門(9)

2024.04.11 連載コラム

ナレッジパートナー:井上 義明


【プロジェクトファイナンスってなに?】

前回民間の国際組織Equator Principlesがプロジェクトファイナンスをどのように説明・定義しているかを見てゆこうとしていました。繰り返しになりますが、Equator Principlesによるプロジェクトファイナンスの説明・定義は次の通りです。

Project Finance is a method of financing in which the lender looks primarily to the revenues generated by a Project, both as the source of repayment and as security for the exposure.
「プロジェクトファイナンスとは、主としてプロジェクト(事業)から生まれる収入を、レンダーが返済の原資とし、さらに担保にもしているファイナンス手法である」(筆者訳)

この英語の文章の要点ももう一度お示しいたします。次の3点に要約することができると思います。

  1. プロジェクトファイナンスはファイナンス手法(a method of financing)である。
  2. レンダーは主としてプロジェクト(事業)から生まれる収入を返済の原資としている。
  3. レンダーは主としてプロジェクト(事業)から生まれる収入を担保としている。

上記の3点を、念のため、一つずつ確認しておきましょう。まず、1点目はプロジェクトファイナンスが「ファイナンス手法」だと言っています。2点目はプロジェクトファイナンスの「返済原資」について述べています。3点目はプロジェクトファイナンスの「担保」について触れています。2点目と3点目は、いずれもレンダーの視点で記述している点にご注意ください。つまり、レンダーから見て、「プロジェクト(事業)から生まれる収入」が「返済原資」であり、かつ「担保」である、と言っています。なお、3点目はレンダーの「担保」について触れているので、今回は一旦措いておくことと致します。なぜなら、「プロジェクトファイナンスとはなにか?」という問いかけに対する答えは、「担保」の話題に触れなくても、十分行うことができるからです。

そこで、上記の3つの点のうち、1点目と2点目に注目してゆきます。まず1点目ですが、「プロジェクトファイナンスはファイナンス手法(a method of financing)である」と言っています。これは何を言おうとしているのでしょうか。「ファイナンス手法(a method of financing)」というのは、一般に言うところの「資金調達」(調達する者の視点から)もしくは「資金提供」(提供する者の視点から)を指しています。事業において「資金調達」もしくは事業に対する「資金提供」の方法と言えば、どんな方法があるでしょうか。そうですね、通常「融資」(Debt)と出資(Equity)がありますね。プロジェクトファイナンスは「融資」です。「出資」ではありません。「融資」と「出資」の違いは大きいですから、ここはしっかり押さえておいてください。

さらに、「融資」についてですが、借入をする事業会社から見れば、これは「借入」のことです。「借入」には大きく分けて2つの方法があります。銀行などから借り入れる「ローン」と債券を発行して借り入れる「社債」(ボンド)があります。プロジェクトファイナンスはローン(融資)で行うことが圧倒的に多いです。しかも、この資金の提供者は銀行が大半です。プロジェクトファイナンスは「社債」を通じて行うことも稀にあります。こういう「社債」をプロジェクトボンドと呼びます。プロジェクトボンドが利用されるのは専らリファイナンス(借り換え)のときです(注)

さて、1点目の「プロジェクトファイナンスはファイナンス手法(a method of financing)である」に戻りましょう。ちょっと細かいところで恐縮ですが、financingという言葉は注意が必要です。なぜなら、debt financingとか equity financingという言葉が存在するからです。debt financingは「融資」のことです。equity financingは「出資」のことです。ということは、a method of financingという英語表現から、プロジェクトファイナンスには「出資」の形をとったものもあり得るのか、と思ってしまいますよね。そういうことはありません。プロジェクトファイナンスは「出資」ではなく、「融資」です。Equator Principlesの英文の中にはin which the lender looks…という表現も出てきて、ここにlender(貸付人)と言う言葉が見られます。従って、この英文全体から解釈すれば、financingと言っているのは専らdebt financing、つまり「融資」を想定していることが分かります。

1点目の「プロジェクトファイナンスはファイナンス手法(a method of financing)である」について、まとめておきたいと思います。この1点目の指摘は、要は「プロジェクトファイナンスは融資である」という意味だと言い直すことができます。さらに、ここでのプロジェクトファイナンスの定義は銀行などが提供する融資だけではなく、社債(プロジェクトボンド)による借入も含めている、と解釈することもできます。「プロジェクトファイナンスは融資である」という指摘は当たり前のようですが、あらためて確認しておきたい点です。さて、Equator Principlesの英文の中には Project(事業)という言葉も出てきますね。これはプロジェクトファイナンスの融資先が Project(事業)であるからです。そうすると、「プロジェクトファイナンスは融資である」からさらに一歩進んで、「プロジェクトファイナンスは事業向け融資である」と言い直すことができると思います。

(次回に続く)

注)
プロジェクトボンドはリファイナンスで利用されることが多いです。新規事業に対するプロジェクトファイナンスは銀行などのローンで行い、事業が操業を開始して事業収入が安定してきたのを見届けて、当初のローンによるプロジェクトファイナンスの借入金をプロジェクトボンドで借り換える(リファイナンスする)わけです。 なぜ、プロジェクトボンドはリファイナンスで利用されることが多いのか。重要な点ですので、整理しておきます。その理由は少なくとも2つあります。
1)[信用格付の問題] 一つ目は、プロジェクトボンドは社債ですから、機関投資家にスムーズに購入してもらうには通常外部格付機関による信用格付が必要だからです。外部格付機関による信用格付を獲得するには、事業が操業を開始して事業収入が安定していることを確認できた後の方が容易です(事業計画段階で信用格付を取るのは不可能ではないにしても、不確実性が高く難易度も高くなります)。
2)[ネガティブ・キャリーの問題] 二つ目は、プロジェクトボンドを事業開始時に発行すると、借入金の全額が借主の手中に一度に入ってきてしまうからです。通常事業の建造物(例えば、風力発電所の設備)の建設代金の支払いは、建設の進捗状況に応じて分割で支払ってゆきます。従って、借入金を全額一度に借り入れる必要はありません。全額一度に借り入れると、余計な借入利息を支払う羽目になってしまいます(これを「ネガティブ・キャリーが発生する」と言います)。そこで通常新規事業ではレンダーとローン契約を締結し、融資金の実行は建設代金の支払いの都度複数回に亘って行ないます。ローンなら、融資金の分割実行ができます。ボンドでは分割実行はできません。つまり、ローンなら、余計な借入利息の支払い(ネガティブ・キャリー)を避けることができますが、ボンドだと、それができないということです。

プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明

*アイキャッチ 筆者が撮影した写真

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