【コラム】(プロファイバンカーの視座)第129回 ファイナンスと事業利回り(35)- ケース11B(ケース8B+3B)

2023.08.10 連載コラム

ナレッジパートナー:井上 義明


【ケース11B】ケース8B+3Bの複合ケース

前回は「ケース10B」と称して、コストオーバーラン(ケース8B)と出資比率・出資金額の引き上げ(ケース2B)とを組み合わせた複合ケースを採り上げた。この「ケース10B」というのは、分かりやすく表現すれば「当初出資比率30%・出資金額USD300Mを希望していたが、レンダーとの交渉の結果、最終的には出資比率40%・出資金額USD400Mになってしまった」「一方で、建設してみたら、コストオーバーランUSD100Mも発生してしまった」というケースである。コストオーバーランUSD100Mについては出資者(スポンサー)が追加出資により資金拠出した。従って、出資者(スポンサー)の出資金額は最終的に合計でUSD500M (USD400M+USD100M)に膨らんだ。

前回の「ケース10B」では出資者(スポンサー)の事業利回り(内部収益率/IRR)は大幅に低下した。これは出資金額が最終的にUSD500Mにも膨らんだためである。プロジェクトファイナンス・レンダーが重視しているDSCRの平均値は上昇した。これは当初の出資金額がUSD300MからUSD400Mに増額したお陰で、プロジェクトファイナンスの借入金がUSD700MからUSD600Mに減額されたからである。借入金の金額が減れば、DSCRの平均値は上昇する。なお、コストオーバーランの発生はDSCRの平均値になんら影響を与えていない。

さて、今回は「ケース11B」と称して、コストオーバーラン(ケース8B)と借入金利の引き上げ(ケース3B)とを組み合わせた複合ケースを採り上げる。今回の「ケース11B」というのは、分かりやすく表現すれば「当初借入金利は4.00%を希望していたが、レンダーとの交渉の結果、最終的には借入金利が4.50%になってしまった」「一方で、建設してみたら、コストオーバーランUSD100Mも発生してしまった」というケースである。コストオーバーランUSD100Mについては出資者(スポンサー)が追加出資により資金拠出する。従って、出資者(スポンサー)の出資金額は合計でUSD400M (USD300M+USD100M)に及ぶ。

この「ケース11B」の事例を一表に示すと、次の通りである。これまでと同様に、ベースケースの内容に対して、変更した箇所(総事業費、借入金利)を青色でマークアップしておいた。

【ケース11Bの事例】

さらに「ケース11B」のキャッシュフロー表をお示しすると次の通りである。

【ケース11Bのキャッシュフロー表】

上記のキャッシュフロー表の左側中央に(DSCRおよびIRRと記載しているところに)、出資者(スポンサー)の事業利回り(内部収益率/IRR)とDSCRの平均値を表示している。事業利回り(内部収益率/IRR)が6.47%で、DSCRの平均値は1.59である。この結果を一表にすると以下の通りである。

【ケース11Bの事業利回り(内部収益率/IRR)とDSCR】

この「ケース11B」は、ベースケースと比べてどういう変化を起こしたであろうか。ベースケースの事業利回り(内部収益率/IRR)は10.83%で、DSCRの平均値は1.65であった。「ケース11B」では事業利回り(内部収益率/IRR)が10.83%から6.47%に大幅に低下している(4.36*ポイントのマイナス)。DSCRの平均値は1.65から1.59に若干低下している(0.06ポイントのプラス)。事業利回り(内部収益率/IRR)とDSCRの平均値の比較表を下記に示しておく(*印 – 下記表のIRRの差異は、四捨五入の関係で4.36ポイントのマイナスではなく4.37ポイントのマイナスと表示されているのでご注意ください)

【ベースケースとケース11Bの比較】

この「ケース11B」では、出資者(スポンサー)の事業利回り(内部収益率/IRR)が大幅に低下する。事業利回り(内部収益率/IRR)が大幅に低下する要因は2つある。1つは借入金利の上昇である。もう1つはコストオーバーランである。コストオーバーランの発生のため、その予算超過金額USD100Mを出資者(スポンサー)が追加出資を通じて資金負担をすることにより、出資金額が最終的にUSD400Mに膨らむからである。

プロジェクトファイナンス・レンダーが重視しているDSCRの平均値についても見ておこう。「ケース11B」ではDSCRの平均値が1.65から1.59にわずかに低下した。これは専ら借入金利の上昇によるものである。前回の「ケース10B」と同様に、コストオーバーランの発生はDSCRの平均値になんら影響を与えていない。

プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明

*アイキャッチ UnsplashAshley Knedlerが撮影した写真

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