2024.12.04
【コラム】(プロファイバンカーの視座)第111回 ファイナンスと事業利回り(17)- ケース1~7のまとめ1
2022.11.10 連載コラム
【ファイナンス条件変更による事業利回り向上策】
前回の「ケース7」では、「ケース1」「ケース2」「ケース3」の複合ケースを採り上げた。「ケース1」は返済期間を2年延長し、「ケース2」は出資比率を10%引き下げ、そして「ケース3」は借入金の金利水準(「借入金利」)を0.50%引き下げている。この「ケース7」では出資者(スポンサー)の事業利回り(内部収益率/IRR)が大幅に向上した。「ケース1」「ケース2」「ケース3」はいずれも出資者(スポンサー)の事業利回り(内部収益率/IRR)を引き上げるので、これは当然の結果ではある。一方、「ケース7」のDSCRの平均値はベースケースに比べてわずかに下回ったが、概ねベースケースと同水準である。つまり、「ケース7」は出資者(スポンサー)の事業利回り(内部収益率/IRR)を大幅に向上させるが、プロジェクトファイナンス・レンダーが重視しているDSCRの平均値はほとんど変わらない。この点が「ケース7」の見どころだと前回指摘しておいた。もっとも、この「ケース7」で返済期間を2年延長している点は、プロジェクトファイナンス・レンダーの視点からは注意を要する。既に「ケース1」の説明の際に指摘しているが、返済期間(融資期間と言ってもいい)が延びるということは、プロジェクトファイナンス・レンダーにとって融資の回収リスクが高まるということである。返済期間を延ばすとDSCRの平均値は上昇するため、DSCRの平均値の数値の動きだけを見ていると、返済期間を延ばすことはプロジェクトファイナンス・レンダーにとって悪くはないように誤解しがちである。「融資の回収リスクが高まる」という点は、キャッシュフロー表を見ているだけでは導き出されない論点なので、注意をしておきたい。
さて、今回から数回にわたりこれまでの7つのケースを復習しておきたいと思う。 7つのケースのうち基本的なケースは「ケース1」「ケース2」「ケース3」の3つのケースである。残りの4つのケースは「ケース1」「ケース2」「ケース3」をそれぞれ組み合わせたものである。そこでまず確認しておきたいのが、なぜこれらの基本的な3つのケースを筆者は選んだのかという点である。3つのケースの内容をもう一度確認しておこう。「ケース1」は返済期間を2年延長している。「ケース2」は出資比率を10%引き下げている。「ケース3」は借入金の金利水準(「借入金利」)を0.50%引き下げている。要すれば、「ケース1」は返済期間の延長、「ケース2」は出資比率の引き下げ、「ケース3」は借入金利の引き下げ、である。これら3つのケースに共通しているのは、いずれも出資者(スポンサー)の事業利回り(内部収益率/IRR)を向上させる典型的なファイナンス条件の変更である、という点である。言い替えれば、出資者(スポンサー)がファイナンス条件を変更して事業利回り(内部収益率/IRR)の向上を図ろうとすれば、まず着眼すべきところは「返済期間の延長」「出資比率の引き下げ」「借入金利の引き下げ」だということである。すなわち、ファイナンス条件変更による事業利回り向上策の典型的な方法は、これら3つの施策ということである。下記に表にして、この点をまとめておく。
【ファイナンス条件変更による事業利回り向上策】
上記の点は非常に重要な点なので、繰り返しておきたい。
出資者(スポンサー)が事業においてファイナンス条件を変更して事業利回り(内部収益率/IRR)の向上を図れないかと考えたとする。そのときにファイナンス条件のどんなところをどんな風に変更すれば、事業利回り(内部収益率/IRR)は向上するのか。その代表的な答えが「返済期間の延長」「出資比率の引き下げ」「借入金利の引き下げ」だということである。出資者(スポンサー)はまず事業への出資検討において、事業自体の利回り(内部収益率/IRR)を検証するのは言うまでもない。事業自体の利回り(内部収益率/IRR)がある程度の水準に達するという確信が持てなければ、当該事業に出資することは見送らざるを得ない。当該事業の事業自体の利回り(内部収益率/IRR)はある程度の水準に達するという確信は持てたとする。そうすると、次にファイナンス条件を検証してゆく。ファイナンス条件を変更して、出資者(スポンサー)の事業利回り(内部収益率/IRR)をさらに向上させることはできないか。あるいはファイナンス条件の見直しによって、事業への出資を可能なものにできないか。このファイナンス条件の検証のときに、上記の諸点つまり「返済期間の延長」「出資比率の引き下げ」「借入金利の引き下げ」という諸点に着眼してゆくのである。(次回に続く)
プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明
*アイキャッチ UnsplashのBalazs Busznyakが撮影した写真
【バックナンバー】
・【コラム】(プロファイバンカーの視座)第110回 ファイナンスと事業利回り(16)- ケース7(ケース1+2+3)
・【コラム】(プロファイバンカーの視座)第109回 ファイナンスと事業利回り(15)- ケース6(ケース2+3)
・【コラム】(プロファイバンカーの視座)第108回 ファイナンスと事業利回り(14)- ケース5(ケース1+3)
・【コラム】(プロファイバンカーの視座)第107回 ファイナンスと事業利回り(13)- ケース4(ケース1+2)
・【コラム】(プロファイバンカーの視座)第106回 ファイナンスと事業利回り(12)- ケース3(借入金利の引き下げ)
・【コラム】(プロファイバンカーの視座)第105回 ファイナンスと事業利回り(11)- ケース2(出資比率を下げる)
・【コラム】(プロファイバンカーの視座)第104回 ファイナンスと事業利回り(10)- ケース1(返済期間延長)
・【コラム】(プロファイバンカーの視座)第103回 ファイナンスと事業利回り(9)- ベースケース続き
・【コラム】(プロファイバンカーの視座)第102回 ファイナンスと事業利回り(8)- ベースケース続き
・【コラム】(プロファイバンカーの視座)第101回 ファイナンスと事業利回り(7)- ベースケース続き
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