【コラム】(プロファイバンカーの視座)第102回 ファイナンスと事業利回り(8)- ベースケース続き

2022.06.23 連載コラム

ナレッジパートナー:井上 義明


ベースケースのキャッシュフロー表 - 支払利息の計算

前回に続きベースケースのキャッシュフロー表について説明を続ける。前回掲載したキャッシュフロー表をご参照いただきたい。前回は主にキャッシュフロー表の1行目にあるCFADS(Cash Flow Available for Debt Service)の説明をした。CFADSがキャッシュフロー表の1行目に存在するのは、キャッシュフロー表の作成はそもそもCFADSから始まるからである。CFADSの数値を把握しないことにはキャッシュフロー表の作成は始まらない。

今回はキャッシュフロー表の2行目から5行目の借入金の返済のところを見てゆく。前回掲載したベースケースのキャッシュフロー表でPrincipal Repayment, Interest Payment, Debt Service, Debt Outstandingと記載している部分である。ベースケースの事例では借入金の金額はUSD 700Milである。返済期間は18年である。ということは、借主である事業会社は18年の間に借入金の元金USD 700Milを全額返済していかなければならない。もちろん借入金に対する支払利息もその都度支払ったうえである。支払利息はその時々の借入金の元金に金利水準4.00%を掛けて算出する。金利水準4.00%というのは年率である。年率ということは「借入金元金 × 4.00%」の計算式で算出される支払利息額は1年分の支払利息額である。仮に四半期分(3か月分)の支払利息額を算出するなら、これを4で割る必要がある。半年分(6か月分)の支払利息額を算出するなら、これを2で割る必要がある。元金の返済額と支払利息の金額の和をDebt Serviceという。日本語なら「元利返済金」である。Debt Serviceという英語の概念には元金の返済額だけではなく支払利息も含まれている点にご留意いただきたい。

キャッシュフロー表の2行目にあるPrincipal Repaymentは毎年の元金の返済額を示している。3行目にあるInterest Paymentは毎年の支払利息の金額を示している。4行目にあるDebt Serviceは「元利返済金」の金額を示しており、これは同年のPrincipal Repaymentと Interest Paymentの和である。5行目にあるDebt Outstandingは毎年末の借入金の残高を示している。例えば、キャッシュフロー表のYear 3(3年目)をご覧いただくと、Principal RepaymentがUSD 29.5Milで Interest PaymentがUSD 25.2Milとなっている。その結果、両者の合計に当たる Debt Serviceの金額はUSD54.7Milになっている。同年末の Debt Outstandingの金額を見ると USD 615.1Milである。これは前年(Year 2)末のDebt Outstandingの金額USD 644.6MilからYear 3のPrincipal RepaymentであるUSD 29.5Milを差し引いたものである(644.6 – 29.5 = 615.1)。

さて、3行目にあるInterest Paymentの金額の計算方法について説明しておきたい。プロジェクトファイナンスの借入金の元利金返済の周期は四半期毎(3か月毎)に行われることが最も多い。1か月毎では忙し過ぎるし、6か月毎では間延びしてしまうので、自ずと四半期毎(3か月毎)に収斂したのであろうと想像する。四半期毎(3か月毎)に借入金の元利金返済が行われるとすると、借入金の元金金額は1年間のうちに4回減額してゆく。支払利息の金額はその時々の借入金の元金に金利を掛けて算出する、と先に記した。しかし、前回掲載のキャッシュフロー表は四半期毎(3か月毎)には作成されておらず、1年毎に作成されている。キャッシュフロー表は1年毎に作成されている一方で、借入金の元金金額は1年間に4回減額しているとしたら、どうやって支払利息の金額を算出するのだろうか。

この点は実務上なかなか興味深い点である。キャッシュフロー表を四半期毎(3か月毎)に作成すれば、この問題は解決する。しかし、キャッシュフロー表は事業期間である20年という長い期間をカバーしたい。仮にキャッシュフロー表を四半期毎(3か月毎)に作成すれば、現行の4倍の長さになってしまう。借入金の支払利息の金額を算出するためだけに、キャッシュフロー表を現行の4倍の長さにするのは作業負担の観点から避けたい。そこで、前回掲載のキャッシュフロー表では1年毎の作成のままで、簡便な方法で支払利息の金額を算出している。その方法は次の通りである。

再びキャッシュフロー表のYear 3(3年目)を例にとってみよう。Year 3の支払利息(Interest Payment)の金額はUSD 25.2Milである。この支払利息の金額は、前年(Year2)末の借入金残高(Debt Outstanding)USD 644.6Milと当年(Year 3)末の借入金残高USD615.1Milの和を2で割り、一旦「当年(Year 3)の借入金の平均残高」を算出したうえで、その借入金の平均残高に対して金利水準4.00%を掛けて算出している。つまり、次のような計算を行っている。

【キャッシュフロー表上の支払利息の計算式】
<Year 3の場合>
((USD 644.6Mil + USD615.1Mil)/ 2 )× 4.00%

<一般式>
上記の計算式を一般的に表現すれば、次の通りである。
((前年末の借入金残高 + 当年末の借入金残高)/ 2 )× 金利水準

(前年末の借入金残高 + 当年末の借入金残高)/ 2 の部分が「当年の借入金の平均残高」である。念のため申し添えると、「前年末の借入金残高」は「当年初めの借入金残高」と同じ残高である。だから、上記の計算式で「当年の借入金の平均残高」が算出できる。

上記の支払利息の金額の計算方法はあくまで簡便法である。簡便法であるため、例えば実際には四半期毎(3か月毎)に借入金の元利金返済が行われるとして、四半期毎に支払利息の金額を計算した場合に比べると、多少誤差が出る。この点を理解したうえでこの簡便法を利用すれば、問題はないと思う。むしろ、この簡便法を採ることによって、キャッシュフロー表は1年毎の作成で済むので、その実務上の効用は大きい。

プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明

*アイキャッチ Photo by Chris Leipelt on Unsplash

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