【コラム】(プロファイバンカーの視座)第109回 ファイナンスと事業利回り(15)- ケース6(ケース2+3)

2022.10.13 連載コラム

ナレッジパートナー:井上 義明


【ケース6】ケース2と3の複合ケース

前回の「ケース5」では、「ケース1」と「ケース3」の複合ケースを採り上げた。「ケース1」は返済期間を18年から20年に2年延長しており、「ケース3」は借入金利を0.50%引き下げている。この「ケース5」では出資者(スポンサー)の事業利回り(内部収益率/IRR)が大幅に向上した。そしてDSCRの平均値もまた引き上がった。「ケース1」も「ケース3」も、それぞれ出資者(スポンサー)の事業利回り(内部収益率/IRR)を引き上げ、かつDSCRの平均値も引き上げていたので、両ケースを合わせた「ケース5」がこのような結果になったのは当然であろう。留意すべきはプロジェクトファイナンス・レンダーの視点である。返済期間の延長は融資金の回収のリスクを高める。借入金利の引き下げがローン・マージンの引き下げを伴うものであれば、その分レンダーの収益(利息収入)は引き下がる。

さて、今回は「ケース6」として、「ケース2」と「ケース3」の複合ケースを採り上げる。「ケース2」では出資比率を30%から20%に引き下げている(第105回をご参照ください)。「ケース3」では借入金の金利水準(以下「借入金利」)を4.00%から3.50%に0.50%引き下げている(第106回をご参照ください)。今回の「ケース6」ではこの両方のケースを同時に行ってみる。つまり、出資比率を引き下げ、かつ借入金利も引き下げる。

【ケース6の事例】

「ケース6」の事例をまとめると上記の表の通りである。今回も上記の表で、ベースケースに対する変更箇所(Equity/DebtとInterest Rateの2か所)を青色にしておいた。

出資比率を30%から20%に引き下げ、かつ借入金利を0.50%引き下げることによって、出資者(スポンサー)の事業利回り(内部収益率/IRR)はどのように変わるのであろうか。また、プロジェクトファイナンス・レンダーが重視するDSCRはどのように変わるのであろうか。まずは「ケース6」のキャッシュフロー表を見てゆこう。「ケース6」のキャッシュフロー表は次の通りである。

【ケース6のキャッシュフロー表】

上記のキャッシュフロー表の左側中央に(DSCRおよびIRRと記載しているところに)、出資者(スポンサー)の事業利回り(内部収益率/IRR)とDSCRの平均値を表示している。事業利回り(内部収益率/IRR)が14.66%で、DSCRの平均値は1.50である。この結果を一表にまとめると以下の通りである。

【ケース6の事業利回り(内部収益率/IRR)とDSCR】

さて、出資比率を30%から20%に引き下げ、かつ借入金利を0.50%引き下げた「ケース6」は、ベースケースと比べてどういう変化を起こしたであろうか。ベースケースの事業利回り(内部収益率/IRR)は10.83%で、DSCRの平均値は1.65であった(第103回をご参照ください)。これに対して「ケース6」では事業利回り(内部収益率/IRR)がベースケースの10.83%から14.66%に向上している(3.83ポイントのプラス)。DSCRの平均値はベースケースの1.65から1.50に引き下がっている(0.15ポイントのマイナス)。ベースケースと「ケース6」の比較表を下記に示しておく。

【ベースケースとケース6の比較】

出資比率を30%から20%に引き下げた「ケース2」でも、借入金利を0.50%引き下げた「ケース3」でも、いずれの場合でも出資者(スポンサー)の事業利回り(内部収益率/IRR)は向上した。従って、両ケースを合わせた「ケース6」でも出資者(スポンサー)の事業利回り(内部収益率/IRR)は大幅に向上している。出資比率を30%から20%に引き下げた「ケース2」では出資者(スポンサー)の事業利回り(内部収益率/IRR)の向上幅は2.36である(第105回をご参照ください)。借入金利を0.50%引き下げた「ケース3」では出資者(スポンサー)の事業利回り(内部収益率/IRR)の向上幅は0.90である(第106回をご参照ください)。それぞれの向上幅を単純に合算すると3.26 (2.36+0.90)である。「ケース6」の事業利回り(内部収益率/IRR)の向上幅は3.83であるので、ここでも再び一部相乗効果があったものと考えられる。

プロジェクトファイナンス・レンダーの視点で、DSCRの平均値の変化についても見ておこう。「ケース6」のDSCRの平均値はベースケースの1.65から1.50に引き下がっている。DSCRの平均値は0.15ポイント悪化している。出資比率を30%から20%に引き下げた「ケース2」ではDSCRの平均値はベースケースの1.65から1.45に0.20ポイント悪化していた。(第105回をご参照ください)。一方、借入金利を0.50%引き下げた「ケース3」ではDSCRの平均値はベースケースの1.65から1.71に0.06ポイント良化していた(第106回をご参照ください)。「ケース6」のDSCRの平均値の0.15ポイントの悪化は「ケース2」と「ケース3」の結果を合算したもの(-0.20+0.06=-0.14)と概ね同じである。

「ケース2」(出資比率の引き下げ)はDSCRの平均値をかなり引き下げる(0.20ポイント引き下げる)ので、「ケース6」でもDSCRの平均値の引き下げは余儀なくされる。DSCRの平均値が引き下げること自体はプロジェクトファイナンス・レンダーにとって喜ばしいことではない。しかし、プロジェクトファイナンス・レンダーにとって重要なのはDSCRの絶対値である。この点は「ケース2」の説明の際にも指摘しておいた(第105回をご参照ください)。「ケース6」ではDSCRが引き下がったとは言え、幸いまだ1.50という数値を維持している。DSCR 1.50という絶対値を見る限り、「電力型」事業であるならプロジェクトファイナンス・レンダーの許容範囲内である。「電力型」事業の場合、ベースケースでDSCR 1.30以上確保されていれば問題ないと考えるプロジェクトファイナンス・レンダーは多い。そして、実際に調印された案件の出資比率を見ても、「電力型」事業であれば出資比率20%(借入比率80%)の案件は随分散見される。

プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明

*アイキャッチ UnsplashHeverton Nascimentoが撮影した写真

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