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【コラム】(プロファイバンカーの視座)第119回 ファイナンスと事業利回り(25)- ケース2B(出資比率の引き上げ)

2023.03.09 連載コラム

ナレッジパートナー:井上 義明


【事業利回りが悪化するケース – 出資比率の引き上げ】

前回からファイナンス条件を変更することによって出資者(スポンサー)の事業利回り(内部収益率/IRR)が悪化するケースを見ている。具体的には前回「返済期間の短縮」のケースを見た。借入金の返済期間を短縮すると、出資者(スポンサー)の事業利回り(内部収益率/IRR)は低下する。また、借入金の返済期間を短縮すると、DSCRの平均値は引き下がる。DSCRの平均値が引き下がるのは一般的にはプロジェクトファイナンス・レンダーにとって良いことではない。しかし、借入金の返済期間が短くなっているので、プロジェクトファイナンス・レンダーにとっては融資金回収のリスクが低下する。従って、返済期間の短縮は総じてレンダーにとって良いことである。

さて、今回はファイナンス条件を変更することによって出資者(スポンサー)の事業利回り(内部収益率/IRR)が悪化するケースの第二弾を見てゆく。今回は「ケース2B」として、主要なファイナンス条件のうち出資比率を引き上げてみる。出資比率を30%から40%に10%引き上げる。これに伴い、出資者(スポンサー)が拠出する出資金の金額はUSD300Mil.からUSD400Mil.に増える。ケース「2B」と名付けたのは、ケース2(出資比率の引き下げ)の内容を逆転させて出資比率の引き上げとしているからである。この点は前回の説明と同様である。

「ケース2B」(出資比率の引き上げ)の事例を一表に示すと、次の通りである。これまでと同様に、ベースケースの内容に対して、変更した箇所(出資金の金額 – それに対応して借入金の金額)を青色でマークアップしておいた。出資金(Equity)の金額がUSD300Mil.からUSD400Mil.に増加することにより、借入金(Debt)の金額はUSD700Mil.からUSD600Mil.に減少する。こういう現象を「レバレッジを下げる」と言う。「レバレッジ」とは借入金の比率のことである。

【ケース2Bの事例】

さらに「ケース2B」のキャッシュフロー表をお示しすると次の通りである。

【ケース2Bのキャッシュフロー表】

上記のキャッシュフロー表の左側中央に(DSCRおよびIRRと記載しているところに)、出資者(スポンサー)の事業利回り(内部収益率/IRR)とDSCRの平均値を表示している。事業利回り(内部収益率/IRR)が9.48%で、DSCRの平均値は1.92である。この結果を一表にすると以下の通りである。

【ケース2Bの事業利回り(内部収益率/IRR)とDSCR】

出資比率を10%(出資金額をUSD100Mil.)引き上げた「ケース2B」は、ベースケースと比べてどういう変化を起こしたであろうか。ベースケースの事業利回り(内部収益率/IRR)は10.83%で、DSCRの平均値は1.65であった。ということは、「ケース2B」では事業利回り(内部収益率/IRR)が10.83%から9.48%に低下し(1.36ポイントのマイナス)、一方でDSCRの平均値は1.65から1.92に引き上がっている(0.27ポイントのプラス)。事業利回り(内部収益率/IRR)とDSCRの平均値の比較表を下記に示しておく。

【ベースケースとケース2Bの比較】

上記の比較表から明らかなように、出資比率(出資金額)を引き上げると、出資者(スポンサー)の事業利回り(内部収益率/IRR)は低下する。これは事業利回りの算出の考え方が基本的に受領する配当金を当初の出資金額で除して算出するものだからである。配当金が分子で出資金額が分母に当たる。出資比率(出資金額)の引き上げはその分母の部分が大きくなるので、事業利回りは低下する。

またプロジェクトファイナンス・レンダーの視点で、DSCRの平均値の変化を見ておこう。DSCRの平均値は1.65から1.92に引き上がっている。出資比率の引き上げにより出資額が増加し、その増加分だけ借入金額は減額する。借入金額が減額すると、毎年の借入金返済額が減額する。そのためにDSCRの平均値は引き上がる。DSCRの平均値が引き上がるのはプロジェクトファイナンス・レンダーにとって良いことである。なぜなら、不測の事態に対して、キャッシュフローの耐久性が上がるからである。つまり、レンダーにとっては融資金回収の確度が上がる、と言ってもいい。

さらに、出資比率(出資金額)の引き上げは出資者(スポンサー)の事業に対するコミットメントが上がるという点も指摘しておきたい。出資者(スポンサー)の事業に対するコミットメントが上がるということは、事業が難局に遭ったときに出資者(スポンサー)が事業を断念する可能性が低下するということである。定性的な側面ではあるが、レンダーにとっては見逃せないポイントである。プロジェクトファイナンスの融資金はノンリコースなので、出資者(スポンサー)は融資金の返済義務を負わない。従って、出資者(スポンサー)は出資金を放棄しても構わないと判断すれば事業を断念することもできる。事業を断念するかどうかのギリギリの経営判断のときに、出資比率が高く出資金額が大きければ、出資者(スポンサー)が事業断念を躊躇する効果が期待できる。プロジェクトファイナンス・レンダーにとっての重要な視点である。

プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明

*アイキャッチ UnsplashPete Godfreyが撮影した写真

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デロイト トーマツ|インフラ・PPPアドバイザリー(IPA)
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