【コラム】(プロファイバンカーの視座)第115回 ファイナンスと事業利回り(21)- ケース1~7のまとめ5

2023.01.12 連載コラム

ナレッジパートナー:井上 義明


【複合ケースの比較】

前回は「ケース1」(返済期間の延長)、「ケース2」(出資比率の引き下げ)、「ケース3」(借入金利の引き下げ)について、DSCRの平均値への影響を見てきた。「ケース1」(返済期間の延長)と「ケース3」(借入金利の引き下げ)はDSCRの平均値を引き上げる。一方、「ケース2」(出資比率の引き下げ)はDSCRの平均値を引き下げる。なぜこういう結果になるのか、という点を前回は見てきた。

今回から「ケース1」(返済期間の延長)、「ケース2」(出資比率の引き下げ)、「ケース3」(借入金利の引き下げ)を組み合わせた複合ケースについて見てゆくことにしよう。複合ケースは全部で4ケースあった。「ケース1」と「ケース2」を組み合わせた「ケース4」、「ケース1」と「ケース3」を組み合わせた「ケース5」、「ケース2」と「ケース3」を組み合わせた「ケース6」、そして最後に「ケース1」「ケース2」「ケース3」すべてを組み合わせた「ケース7」である。これら4つの複合ケースを一覧表に整理すると、次の通りである。

【ケース4、5、6、7の内容】

さらに、上記4つのケースの結果をもう一度見てゆくことにしよう。下記に一覧表を用意した。なお、下記の一覧表にはこれまで見てきたベースケースの結果やケース1、2、3の結果も合わせて表示する。そうすることによって、比較がしやすくなる。

【全ケースの結果】

上記の一覧表は、これまで見てきた全ケースの結果を一覧したものである。結果については、これまで通り出資者(スポンサー)の事業利回り(内部収益率/IRR)とプロジェクトファイナンス・レンダーが注目するDSCRの平均値を表示している。またDSCRのところには数値に加えて、ベースケースに比べてDSCRの平均値が引き上がったケースには右上がりの青色の矢印を書き加え、反対にベースケースに比べてDSCRの平均値が引き下がったケースには右下がりのオレンジ色の矢印を書き加えている。こうすることによって、DSCRの平均値がベースケースに比べて引き上がったのか、引き下がったのか、視覚的直観的に分かるようにしておいた。

「ケース4」
さて、上記の一覧表を見ながら、複合ケース「ケース4」「ケース5」「ケース6」「ケース7」を見てゆくこととしよう。まず「ケース4」であるが、「ケース4」は「ケース1」(返済期間の延長)と「ケース2」(出資比率の引き下げ)を組み合わせたものである。「ケース1」は出資者(スポンサー)の事業利回り(内部収益率/IRR)を引き上げるだけではなく、DSCRの平均値も引き上げる。一方、「ケース2」も出資者(スポンサー)の事業利回り(内部収益率/IRR)を大幅に引き上げるが、DSCRの平均値をかなり引き下げる。その結果、「ケース1」と「ケース2」を組み合わせた「ケース4」は、出資者(スポンサー)の事業利回り(内部収益率/IRR)を14.79%まで(ベースケース比3.96ポイントのプラス)大幅に引き上げるが、DSCRの平均値を1.56まで(ベースケース比0.09ポイントのマイナス)引き下げる。「ケース4」の評価については、プロジェクトファイナンス・レンダーがどう受け止めるのか、という点が重要である。返済期間の延長(「ケース1」)はレンダーにとって融資の回収リスクを高める。さらに出資比率の引き下げ(「ケース2」)はDSCRの平均値をかなり引き下げる。返済期間の延長によって融資の回収リスクが高まるとは言っても、出資者(スポンサー)による説得次第では応諾・許容するプロジェクトファイナンス・レンダーは相応存在するはずである。出資比率の引き下げによるDSCR平均値の低下については、既に指摘の通り、そのDSCR平均値の絶対値が重要である。引き下がったとは言え、DSCR平均値の絶対値が許容の範囲内であれば、プロジェクトファイナンス・レンダーが受け入れる可能性は高い。(次回に続く)

プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明

*アイキャッチ UnsplashAndreas Gücklhornが撮影した写真

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