【コラム】(プロファイバンカーの視座)第112回 ファイナンスと事業利回り(18)- ケース1~7のまとめ2

2022.11.24 連載コラム

ナレッジパートナー:井上 義明


【ファイナンス条件変更による事業利回り向上策】

前回は「ケース1」(返済期間の延長)、「ケース2」(出資比率の引き下げ)、「ケース3」(借入金利の引き下げ)が出資者(スポンサー)の事業利回り(内部収益率/IRR)を向上させる典型的なファイナンス条件の変更である、という点を見てきた。そもそも、なぜ「返済期間の延長」で事業利回り(内部収益率/IRR)が向上するのか。なぜ「出資比率の引き下げ」で事業利回り(内部収益率/IRR)が向上するのか。なぜ「借入金利の引き下げ」で事業利回り(内部収益率/IRR)が向上するのか。それぞれについて改めて確認しておこう。

まず「返済期間の延長」で事業利回り(内部収益率/IRR)が向上するのは、事業会社から創出されるキャッシュフローのうち出資者(スポンサー)が早期に配当金として受領できる部分が増えるからである。返済期間が短いと、事業会社から創出されるキャッシュフローの多くが早期に借入金の返済のためレンダーに行ってしまう。返済期間を長くすれば、出資者(スポンサー)が配当金として早期に受領できる金額が増える。これが返済期間の延長によって事業利回り(内部収益率/IRR)が向上する理由である。注意いただきたいのは、単に配当金に回る「金額」が増えるから、というのは正確ではない。正確には配当金に回る「金額の現在価値」が増えるからである。そのために、筆者は「早期に配当金として受領できる」や「早期に借入金の返済のためレンダーに行ってしまう」と表現している。配当金の現在価値を引き上げるためには、できるだけ早期に配当金を受領することが事業利回り(内部収益率/IRR)を引き上げるうえで重要である。なお、これまでの説明からお気づきになった読者もおられると思うが、出資者(スポンサー)とレンダーは借主である事業会社から創出されるキャッシュフローをめぐって、いわば「綱引き」の競技のように奪い合っている。事業会社から創出されるキャッシュフローをめぐる争いは、「綱引き」のようにゼロサム・ゲームである。一方の取り分が増えた分だけ、他方の取り分は減る。「返済期間の延長」を行うことによって、出資者(スポンサー)は事業会社から創出されるキャッシュフローからより早期により多く配当金を受領することが可能となる。このことはキャッシュフローの「綱引き」で、出資者(スポンサー)はキャッシュフローの「綱」を自分の方に引き寄せたことになる。

次に「出資比率の引き下げ」であるが、「出資比率の引き下げ」で事業利回り(内部収益率/IRR)が向上するのは、出資金額を抑えられるからである。事業利回り(内部収益率/IRR)の計算は、「配当金を分子に出資金を分母に」行っている。従って、分母に当たる出資金の金額を抑えることによって、事業利回り(内部収益率/IRR)の数値が向上する。なお、出資比率の引き下げた分だけ、借入比率は引き上がる。出資比率と借入比率の合計は常に100%である。借入比率を引き上げることを金融関係者は「レバレッジを上げる」とか「レバレッジを掛ける」という。ちなみに、金融が緩和してくると、この出資比率は低下する傾向がある。金融の緩和によってレンダー間の貸出競争が激しくなるからであろう。これまでの世界的な金融緩和で、プロジェクトファイナンス案件のうち特に「電力型」事業の出資比率は20%程度まで低下してきた。今年(2022年)3月から米国のFRB(連邦準備理事会)が政策金利を引き上げている。このため、米国ドルの借入金利は随分引き上がってきた。こういう金融環境下では出資比率のさらなる低下は起こりにくいと考えられる。

最後に「借入金利の引き下げ」であるが、「借入金利の引き下げ」で事業利回り(内部収益率/IRR)が向上するのは、直観的にも分かりやすい。「借入金利の引き下げ」によって、事業会社から創出されるキャッシュフローのうち支払利息としてレンダーに支払う金額は減少する。この減少した分は出資者(スポンサー)への配当金に回せる。つまり、出資者(スポンサー)への配当金が増える。従って、事業利回り(内部収益率/IRR)は向上する。(次回に続く)

プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明

*アイキャッチ UnsplashNareeta Martinが撮影した写真

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