【コラム】(プロファイバンカーの視座)第147回 プロジェクトファイナンス超入門(11)

2024.05.09 連載コラム

ナレッジパートナー:井上 義明


【プロジェクトファイナンスってなに?】

前回は後半で、プロジェクトファイナンスを一旦離れて、新規の事業に対する融資というものを考えてみるというところで終わっていました。今回はその続きのお話をします。

新規の事業に対する融資の例として、銀行の取引先企業が子会社を設立して新規の事業を始めようとするケースを想定してみます。そして、その取引先企業から「この子会社に融資をしてもらえませんか」と銀行が相談を受けたとします。取引先企業からの相談ですから、銀行としては基本的に融資自体は応諾しようと決めました。さて、問題は「具体的にどういう条件で銀行は取引先企業の子会社に融資を行うのか」という点です。

子会社は新規の事業をこれから立ち上げようとしているわけですから、その事業に失敗する可能性だって十分ありますよね。銀行は事前に子会社の計画している新規事業の内容をよくヒアリングし、事業計画もよく精査したとはいえ、子会社の新規事業は成功することが決して約束されているわけではありません。銀行は融資先となる子会社が事業に失敗し破綻したときのことも当然想定しておかなければなりません。さもなければ、融資したお金は返ってきません(注1)。融資したお金が返ってこないような事態が繰り返されると、銀行自体が破綻してしまいます。

従って、銀行はこの子会社に融資するに当たって、親会社(取引先企業)から債務保証をもらうのが普通です。この親会社が提供する債務保証を通称「親会社保証」と言ったりします。日本の企業が新規の事業(注2)を行うために子会社を設立し、その子会社が銀行から融資を受ける際に、「親会社保証」は頻繁に利用されてきました。

以上の説明の通り、新規事業を担う子会社に融資を行う場合、通常銀行は親会社の債務保証を求めます。つまり、新規事業向けの融資は「親会社保証」が普通だということになります。これが融資の世界の常識と言っても過言ではありません。銀行に勤務する融資担当者に訊けば、100人のうち90人以上の銀行員がきっとそう答えるはずです。

さて、ここで国際組織Equator Principlesのプロジェクトファイナンスの説明・定義の2点目に戻ってみましょう。2点目というのは、「レンダーは主としてプロジェクト(事業)から生まれる収入を返済の原資としている」というものです。プロジェクトファイナンスの「返済原資」は「プロジェクト(事業)から生まれる収入」だと言っているわけです。前回この点について、「意味していることはなかなか深い」と付言しておきました。なぜ、意味していることが深いのか。その理由、みなさんももうお気づきでしょうか。

そうですね。プロジェクトファイナンスの「返済原資」は「プロジェクト(事業)から生まれる収入」に限定しているわけですから、プロジェクトファイナンスの「返済原資」は上記で説明したような親会社からの債務保証いわゆる「親会社保証」には頼っていない、というわけです。「親会社保証」はプロジェクトファイナンスの「返済原資」ではないとしている点が、意味していることが深い理由です。

それではまとめに入ります。国際組織Equator Principlesのプロジェクトファイナンスの説明・定義の2点目のまとめです。この2点目は要するに次のように理解することができます。
プロジェクトファイナンスの「返済原資」は「プロジェクト(事業)から生まれる収入」だけであって、親会社(注3)からの債務保証いわゆる「親会社保証」には頼っていない。このことを手短に表現すれば、「プロジェクトファインスはノンリコース・ローンである」ということを意味しています。

注1)
「子会社が借入金を返済できないときは親会社が返済するんじゃないの?」と疑問に思われる方がいらっしゃると思います。それは本稿で説明している「親会社保証」が通常存在するからです。もし「親会社保証」が無ければ、子会社が借入金を返済できなくとも親会社が肩代わって返済する法的義務はありません(親会社保証はないけど、道義的責任感から親会社が肩代わって返済する例も稀にはありますが)。

注2)
企業が子会社を設立する理由には「新規事業」以外にも、親会社が担っていた既存の事業の一部を切り出して(いわゆるスピン-オフ)子会社に担わせるケースもあります。

注3)
「親会社」という言葉は、プロジェクトファイナンスの文脈では「出資者」と読み替えてください。そして、プロジェクトファイナンスの借主となる事業会社は、通常複数の出資者が存在します。

プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明

*アイキャッチ UnsplashFernando Jorgeが撮影した写真

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