【コラム】(プロファイバンカーの視座)第113回 ファイナンスと事業利回り(19)- ケース1~7のまとめ3

2022.12.08 連載コラム

ナレッジパートナー:井上 義明


【ファイナンスによる事業利回り向上策の比較】

前回は『なぜ「ケース1」(返済期間の延長)、「ケース2」(出資比率の引き下げ)、「ケース3」(借入金利の引き下げ)で事業利回り(内部収益率/IRR)が向上するのか』という点を少し詳しく見てきた。今回は「ケース1」(返済期間の延長)、「ケース2」(出資比率の引き下げ)、「ケース3」(借入金利の引き下げ)の3つのケースの結果を相互に比較してみたいと思う。ベースケースを軸にしながら、「ケース1」(返済期間の延長)、「ケース2」(出資比率の引き下げ)、「ケース3」(借入金利の引き下げ)の結果を一覧表にすると次の通りである。

【ケース1、2、3の結果】

「ケース1」(返済期間の延長)、「ケース2」(出資比率の引き下げ)、「ケース3」(借入金利の引き下げ)は、いずれも出資者(スポンサー)の事業利回り(内部収益率/IRR)を向上させる。この点は上記の一覧表でも明らかである。ベースケースの事業利回り(内部収益率/IRR)10.83%に対して、「ケース1」が11.75%、「ケース2」が13.20%、「ケース3」が11.73%といずれも事業利回り(内部収益率/IRR)が高くなっているからである。

ベースケースに対する事業利回り(内部収益率/IRR)の向上幅に注目してみると、「ケース1」(返済期間の延長)と「ケース3」(借入金利の引き下げ)は1.00ポイント弱の向上である。「ケース2」(出資比率の引き下げ)はおおよそ2.40ポイントと大幅な向上である。この向上幅の違いだけを見て、「出資比率の引き下げ」は出資者(スポンサー)の事業利回り(内部収益率/IRR)を引き上げる効果が大きいと判断するのは早計である。今回の「ケース2」は出資比率をベースケースに対して10%も引き下げている。これが仮に出資比率の引き下げ幅を5%にとどめていたとしたら、事業利回り(内部収益率/IRR)の引き上げ効果は半減していたはずである。同様に、「ケース1」の返済期間の延長が2年ではなく4年だったら、事業利回り(内部収益率/IRR)の引き上げ効果はもう少し大きい。また「ケース3」の借入金利の引き下げ幅が0.50%ではなく1.00%だったら、事業利回り(内部収益率/IRR)の引き上げ効果はもう少し大きい。これらの点は誤解のないように数字をよく確かめていただきたいと思う。

さて注目いただきたいのは、上記の一覧表の右側DSCRの平均値の動きである。DSCRの数値はプロジェクトファイナンス・レンダーが重視している、と何度となく指摘してきた。出資者(スポンサー)にとって事業利回り(内部収益率/IRR)の数値が重要なのと同様に、プロジェクトファイナンス・レンダーにとってDSCRの数値は重要である。

まず「ケース1」(返済期間の延長)と「ケース3」(借入金利の引き下げ)でDSCRの平均値が引き上がっている点に注目しておこう。上記の一覧表ではDSCRの平均値を示すとともに、青色の矢印でDSCRの平均値が引き上がっていることを視覚的にも示している。一方で、「ケース2」(出資比率の引き下げ)ではDSCRの平均値が引き下がっている。上記の一覧表ではオレンジ色の矢印で、DSCRの平均値が引き下がっていることを視覚的に示している。一般論としてはDSCRの平均値が引き上がることはプロジェクトファイナンス・レンダーにとって良いことである。逆にDSCRの平均値が引き下がることはプロジェクトファイナンス・レンダーにとって悪いことである。(次回に続く)

プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明

*アイキャッチ UnsplashPatrick Chenが撮影した写真

【バックナンバー】
【コラム】(プロファイバンカーの視座)第112回 ファイナンスと事業利回り(18)- ケース1~7のまとめ2
【コラム】(プロファイバンカーの視座)第111回 ファイナンスと事業利回り(17)- ケース1~7のまとめ1
【コラム】(プロファイバンカーの視座)第110回 ファイナンスと事業利回り(16)- ケース7(ケース1+2+3)
【コラム】(プロファイバンカーの視座)第109回 ファイナンスと事業利回り(15)- ケース6(ケース2+3)
【コラム】(プロファイバンカーの視座)第108回 ファイナンスと事業利回り(14)- ケース5(ケース1+3)
【コラム】(プロファイバンカーの視座)第107回 ファイナンスと事業利回り(13)- ケース4(ケース1+2)
【コラム】(プロファイバンカーの視座)第106回 ファイナンスと事業利回り(12)- ケース3(借入金利の引き下げ)
【コラム】(プロファイバンカーの視座)第105回 ファイナンスと事業利回り(11)- ケース2(出資比率を下げる)
【コラム】(プロファイバンカーの視座)第104回 ファイナンスと事業利回り(10)- ケース1(返済期間延長)

, , , , , , ,


デロイト トーマツ|インフラ・PPPアドバイザリー(IPA)
ISS-アイ・エス・エス

月別アーカイブ