【コラム】(プロファイバンカーの視座)第134回 ファイナンスと事業利回り(40)- ケース1B~11Bのまとめ5

2023.10.26 連載コラム

ナレッジパートナー:井上 義明


【ファイナンス条件変更と事業利回り】

前回は複数のファイナンス条件の変更を組み合わせた複合ケースの分析結果を見てきた。この分析結果をもう一度お示しして、もう少し細部を見てゆきたいと思う。

【複数のファイナンス条件の変更を組み合わせた複合ケースの分析結果】

上記の複合ケースはいずれも事業利回り(上記表ではIRRの部分)がベースケース(Base Case)に比べて悪化している点は前回も指摘した。上記表の見どころは、プロジェクトファイナンス・レンダーが重視しているDSCRの平均値(上記表ではDSCRの部分)の変化の方であるという点も指摘した。上記表を見ながら、プロジェクトファイナンス・レンダーが重視しているDSCRの平均値に焦点を当てながら、レンダーの視点から各ケースをもう少し子細に見てみよう。

    • 「ケース4B」返済期間の短縮+出資比率の引き上げ
      返済期間の短縮はDSCRの平均値を引き下げる。出資比率の引き上げはDSCRの平均値を引き上げる。両ケース合算の効果としてDSCRの平均値は引き上がっている(出資比率を10%引き上げると、DSCRの平均値を引き上げる効果は大きい)。
      DSCRの平均値が引き上がることはプロジェクトファイナンス・レンダーにとって良いことである。また、本ケースでは返済期間の短縮によってレンダーの融資金の回収が早まっている。さらに、出資比率の引き上げによって借入金額は減少している。このケースはレンダーによって悪いところがない。
    • 「ケース5B」返済期間の短縮+借入金利の引き上げ
      返済期間の短縮はDSCRの平均値を引き下げる。借入金利の引き上げもDSCRの平均値を引き下げる。従って、両ケース合算の効果としてDSCRの平均値は引き下がっている。
      DSCRの平均値が引き下がることはプロジェクトファイナンス・レンダーにとって良いことではない。しかし、返済期間の短縮によってレンダーの融資金の回収が早まっている点はレンダーにとって良いことである。借入金利の引き上げは基準レートの引き上げによって発生しているのであれば、レンダーの収益増にはつながらない。ローン・マージンの引き上げによって発生しているのであれば、レンダーの収益増につながる。復習になるが、借入金利は基準レートとローン・マージンから成っている。
  • 「ケース6B」出資比率の引き上げ+借入金利の引き上げ
    出資比率の引き上げはDSCRの平均値を引き上げる(出資比率を10%引き上げると、DSCRの平均値を引き上げる効果は大きい)。借入金利の引き上げはDSCRの平均値を引き下げる。両ケース合算の効果としてDSCRの平均値は引き上がっている。
    DSCRの平均値が引き上がることはプロジェクトファイナンス・レンダーにとって良いことである。出資比率の引き上げによって借入金額が減少している点もレンダーにとって良いことである。借入金利の引き上げは上記の通り、基準レートの引き上げによって発生しているのであれば、レンダーの収益増にはつながらない。
    • 「ケース7B」返済期間の短縮+出資比率の引き上げ+借入金利の引き上げ
      返済期間の短縮はDSCRの平均値を引き下げる。出資比率の引き上げはDSCRの平均値を引き上げる。借入金利の引き上げはDSCRの平均値を引き下げる。この3ケースの合算の効果はDSCRの平均値を引き上げている。特に出資比率を10%引き上げることによるDSCRの平均値引き上げ効果が大きい点が奏功している。
      DSCRの平均値が引き上がっているので、結果としてプロジェクトファイナンス・レンダーにとっては良いことである。返済期間の短縮によってレンダーの融資金の回収が早まっている点も、出資比率の引き上げによって借入金額が減少している点も、いずれもレンダーにとって良いことである。借入金利の引き上げは上記の通り、基準レートの引き上げによって発生しているのであれば、レンダーの収益増にはつながらない。

これらの複合ケースはすべてのケースでスポンサーの事業利回り(内部収益率/IRR)が悪化している。スポンサーの事業利回りが悪化しているのだから、さぞかしレンダーのDSCRの平均値は向上しているのではないかと思いきや、「ケース5B」のようにレンダーのDSCRの平均値もまた悪化しているケースがある。この点が見どころである。

(次回に続く)

プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明

*アイキャッチ UnsplashWilliam DeHooghが撮影した写真

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