【コラム】(プロファイバンカーの視座)第131回 ファイナンスと事業利回り(37)- ケース1B~11Bのまとめ2

2023.09.14 連載コラム

ナレッジパートナー:井上 義明


【ファイナンス条件変更と事業利回り】

前回に続き、今回も「ケース1B」から「ケース11B」のまとめをしてゆく。
今回はまずファイナンス条件の変更で事業利回り(内部収益率/IRR)が悪化するケース(ケース1B~7B)を見てゆく。そもそもファイナンス条件の変更とはどういう内容の変更のものだったかを再度確認しておこう。

ファイナンス条件の変更によって事業利回り(内部収益率/IRR)が悪化するケースを見るに当たって、ファイナンス条件の変更内容として「返済期間の短縮」「出資比率の引き上げ」「借入金利の引き上げ」の3つを採り上げた。さらに最後の「借入金利の引き上げ」については、昨今の米国の政策金利の急速な上昇を踏まえて、借入金利の大幅な引き上げのケースも採り上げてみた(「借入金利の大幅引き上げ」)。それぞれのケースの呼称は順番に「ケース1B」、「ケース2B」、「ケース3B」、「ケース3BB」としている。これらを一表に示すと、下記の通りである。

【ファイナンス条件変更で事業利回りが悪化するケースの具体的内容】

上記の「ケース1B」、「ケース2B」、「ケース3B」、「ケース3BB」の分析結果を一表にしてみると、次の通りである。

【ケース1B、ケース2B、ケース3B、ケース3BBの分析結果】

「ケース1B」、「ケース2B」、「ケース3B」、「ケース3BB」はいずれもファイナンス条件の変更で事業利回り(内部収益率/IRR)が悪化するケースを採り上げているので、事業利回り(上記表ではIRRの部分)はすべてのケースでベースケース(Base Case)よりも悪化している。見どころは、プロジェクトファイナンス・レンダーが重視しているDSCRの平均値の変化の方である(上記表ではDSCRの部分)。上記の表の右側DSCRと表記したところにはそれぞれのケースのDSCRの平均値を表示するとともに、DSCRの平均値が上昇したのか、低下したのかを矢印で視覚的に分かるように表示している。矢印の表示で一目瞭然の通り、DSCRの平均値は「ケース1B」、「ケース3B」、「ケース3BB」で事業利回りと同様に悪化している。しかし、「ケース2B」では上昇している。「ケース2B」だけがDSCRの平均値が上昇している点が重要である。

上記の表を踏まえて、プロジェクトファイナンス・レンダーが重視しているDSCRの平均値に焦点を当てて、各ケースをもう少し子細に見てみよう。

    • 「ケース1B」返済期間の短縮
      返済期間の短縮はDSCRの平均値を引き下げる。DSCRの平均値が引き下がることは一見プロジェクトファイナンス・レンダーにとって悪いことのようにみえる。しかしながら、返済期間が短縮するということはレンダーの融資金の回収が早まるということである。引き下がった後のDSCRの平均値の水準次第ではあるが、融資金の回収が早まることはレンダーにとって良いことである。ちなみに、本例のように引き下がった後のDSCRの平均値の水準が「電力型」事業の場合で1.50以上あるならば、実務の現場でもレンダーにとって問題はない。
    • 「ケース2B」出資比率の引き上げ
      出資比率の引き上げはDSCRの平均値を引き上げる。その理由は、出資比率の引き上げが借入比率を引き下げるからである。借入比率を引き下げるということは借入金額を引き下げるからである。
      昨今出資比率が20%のプロジェクトファイナンス案件は随分存在するようになった。仮に事業主(出資者、スポンサー)が出資比率20%を希望しているにもかかわらず、プロジェクトファイナンス・レンダーがもっと出資比率を引き上げるように(例えば出資比率25%や30%へ引き上げるように)要請してきたとすれば、それはDSCRの平均値がレンダーの期待を下回っていることが理由である場合が多い。つまり、レンダーは出資比率を引き上げて(すなわち借入比率を引き下げて)DSCRの平均値の引き上げを企図しているということである。
  • 「ケース3B」、「ケース3BB」借入金利の引き上げ
    借入金利の引き上げはDSCRの平均値を引き下げる。昨今の米国の政策金利の引き上げは、まさに借入金利を引き上げている。米国の政策金利の引き上げは借入を行う際の基準レートを引き上げる。そのため、(ローン・マージンは上がっていなくとも)借入金利が上昇する。ローン・マージンが引き上がっているわけではないので、レンダーの純金利収入(借入金利マイナス基準レート x 借入金残高)が増えているわけではない。従って、昨今の米国金利の上昇は事業主(出資者、スポンサー)にとっても、レンダーにとっても、芳しい出来事ではない。投資事業の選別が厳しくなっているということである。

(次回に続く)

プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明

*アイキャッチ UnsplashMārtiņš Zemlickisが撮影した写真

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