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【コラム】第12回 民間の貿易保険(取引信用保険、ポリティカルリスク保険、ストラクチャードクレジット保険)の活用について(12)

2020.02.25 連載コラム

ナレッジパートナー:須知 義弘


今回は、輸出保証保険(Wrongful Calling of Guarantee)というあまり馴染みのない保険について説明したい。この保険は、貿易保険法上にも規定されているが、NEXIでは実際は売り止め状態だと聞いている(実際にNEXIの公式ウェブサイトでは商品としても紹介されていない)。考えられるその理由は後述する。

以下に図示したように(この例では請負契約に基づく建設プロジェクトを想定している)、この保険は、発注者がボンドを金融機関に保証請求し、その金融機関が受注者(被保険者)にその保証を求償した結果被る損害をカバーするものである。この例では、金融機関が一つしか登場しないが、クロスボーダーの取引の大半は、発注者所在国の金融機関がまず保証請求を行い、その金融機関が受注者所在国の金融機関に保証請求を行う。そしてその受注者所在国の金融機関が受注者に保証求償するので、二つの金融機関が登場することになる。

発注者が、金融機関に保証請求する理由としては、受注者が請負契約を履行していないことが前提となるが、典型的な輸出保証保険では、以下のことを担保事由としている。

発注者が公的機関(政府、国有企業など)の場合

  1. 発注者による不当な履行請求 – この場合は、必ずしも受注者の請負契約不履行が前提ではなく、契約履行をしているにも関わらず保証請求されるという発注者の身勝手な言い分もカバーすることになる
  2. 発注者所在国政府または受注者所在国政府の指示/法律/政令により受注者が請負契約上の義務を法的に履行できない
  3. 発注者所在国政府または受注者所在国政府による輸出入禁止または有効であった輸出入ライセンスの取消により、受注者が請負契約上の義務を法的に履行できない
  4. 発注者所在国でも戦争、反乱、暴動、国内騒乱、テロ行為などの暴力的行為により、受注者が請負契約上の義務を履行できない

発注者が民間企業の場合
上記、2~4は公的機関と同じだが、1が以下のようになる。

  1. 発注者所在国政府の指示/法律/政令により発注者が保証請求をしなければならない

また、ここで対象となるボンドは多くの場合、オンディマンド(On Demand/要求払い)である。

輸出保証保険で主として問題となるのが、公的機関が発注者である場合の不当な履行請求である(上記の1.)。果たして、何をもって不当な履行請求と言えるのだろうか。受注者側が、請負契約書上の履行義務を完璧に果たしているにも関わらず、発注者から履行請求された場合は、不当な履行請求と言えるかもしれないが、多くの場合、発注者側にも言い分がある(受注者の仕事の質が契約書上の基準に達していない、など)。そういったケースでは保険会社が判断を下すこともあるが、多くの場合、請負契約書に記載された紛争解決手段(多くは国際仲裁)に則り、受注者側に有利な判決/判断が出て初めて保険金が支払われることになる。

この保険を実質売り止め状態になっているのは、金融機関が被保険者になる必要があるからだと推測できる。一般に金融機関は、発注者から保証請求があれば、通常、受注者に保証履行を求めるのだが、日本においては、受注者が金融機関の重要顧客である場合、保証履行を求めないこともあると聞く。この保険はその為のカバーだと思われる。しかしながら金融機関は保証履行を求めないケースの方がかなり少ないと推測されるので、そうなると保証履行を求めるケースと求めないケース(NEXIの保険金が払われるケース)が混在することになり、金融機関のオペレーションも混乱する。これが、輸出保証保険が馴染まない理由だと考える。

受注者(被保険者)が発注者のリスクを検討する際に、発注者の契約不履行は当然考慮していることだろう。仮に、請負金額が500億円だとして、3年程度にわたる公共工事の場合、工事のスケジュールや支払い条件にもよるが、最大のエクスポージャー(有事に受注者が被る最大の金額)は70億円から80億円程度だとしよう。一方、履行保証で求めれられる金額は、ケースバイケースだが、仮に請負金額の15%だとすると75億円となり、発注者の契約不履行で想定される最大損失額と同程度となる。保険会社によっては、複数の発注者のリスクを包括的に引受けるところもある(たとえば、複数の発注者を対象とし、どの発注者が保険事故を起こしても、最初の100億円をカバーするなど)ので、輸出保証保険をポートフォリオで管理することも出来る。先に述べたような「不当な履行請求」の問題点はあるものの、大型な海外請負契約がある会社は輸出保証保険の付保を検討することも一案であり、実際の海外の複数の大手建設業者はこの保険を活用している。

須知義弘

*アイキャッチ Photo by Oskar Kadaksoo on Unsplash

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