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【コラム】第20回 民間の貿易保険(取引信用保険、ポリティカルリスク保険、ストラクチャードクレジット保険)の活用について(20)

2020.06.23 連載コラム

ナレッジパートナー:須知 義弘


今回は貿易保険を引き受ける際に、保険会社が重要視している点の一つに触れてみたい。それは、保険金を払った後に、その保険金を回収できるかどうかだ。もう少し詳しく言うと、保険金を払った後に、保険契約者の地位に代位し、その権利を行使することにより、保険金を回収できるかどうかということだ。

民間の相手方の債務不履行をカバーの対象とする取引信用保険やストラクチャードクレジット保険などは、相手方が倒産してしまったら、別途担保でも取っていない限り、保険金支払い後に回収できる可能性は極めて低い。また、以前解説した海外投資保険における戦争・政治的暴力による損害も、求償する相手がいない(さすがにテロリストや反政府勢力などには求償できない)ので回収できないと考えられている(例外は後述する)。ところが、相手方が国の場合は、倒産することがないので、長期間に亘るかもしれないが、債権を回収できる可能性が高い。そこで、保険契約者の地位に代位した時に、相手方に求償できるような建付けになっているかが重要になってくる。

売買契約などは、建付けがシンプルなので、回収は行いやすい。実際にあった例だが、日本の商社が建機を売る契約をアフリカのB国の国営企業と締結し、その5年間に亘る四半期ごとの支払いをB国の財務省が保証しているという案件があった。最初の数回はきちんと支払いがあったが、その後支払いは止まり、財務省の保証も履行されなかったので、商社Aは保険金を請求し、約10億円の保険金が保険会社Cから支払われた。保険会社Cは商社Aの地位に代位して、B国に対して回収行為を開始した(B国は国なので債務不履行を起こしても、倒産することはない)。保険会社Cは、B国に影響力を及ぼすことができる人脈などを探し当て、結局20年かけて約15億円を回収した。余談だが、当初約1億円だった保険契約者の自己負担分も、1.5億円回収でき、商社Aはその経理処理に困ったということもあった。

ところが、単純な売買契約ではなく、以下のような取引の場合、契約内容が重要になってくる。

商社Dが商品を買主であるE国政府に売るのだが、その支払いは金融機関が保証していて、金融機関が保証履行した時が保険事故となるような取引である。ここで、重要になってくるのは、金融機関が保証履行した時に、商社Dの地位に代位できるような保証契約の内容になっているかどうかである。もし、そうなっていなければ、保険会社が保険金を支払って金融機関の地位に代位しても、その先に進めむことができず、結局、回収するルートがなくなってしまうことになる。

また、売買契約ではないが、前述した、海外投資保険における戦争・政治的暴力の回収例を挙げよう。ある資源国の鉱山に投資をしていた商社が、その国で反政府勢力の影響力が増大し、鉱山の操業が出来なくなり、投資を放棄せざるを得ないという案件があった。この商社は保険会社から数十億円の保険金を取得した。このケースでは反政府勢力に求償するわけにはいかないので(求償したとしても払うわけがない)、通常は、保険金の回収は出来ないわけだが、幸いなことに鉱山自体に大きな損傷はなく、保険金を支払い鉱山の所有権を取得した保険会社は、反政府勢力の影響力が軽減した頃を見計らい、鉱山の運営を行う専門の会社を雇った。つまり、この保険会社は、この鉱山を運営し、そこから産出された資源を売却することで、保険金を回収することができたのである。

上記の鉱山の案件においては、引受時に回収ルートが確立されていたわけではないとは思うが、民間の貿易保険を引き受けている保険会社は、引き受けた案件にもし何かあったときでも、回収が可能かどうかを常に確認している。

須知義弘

*アイキャッチ Photo by Previn Samuel on Unsplash

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