• Home
  • ナレッジ ハブ
  • 連載コラム
  • 【コラム】第19回 民間の貿易保険(取引信用保険、ポリティカルリスク保険、ストラクチャードクレジット保険)の活用について(19)

【コラム】第19回 民間の貿易保険(取引信用保険、ポリティカルリスク保険、ストラクチャードクレジット保険)の活用について(19)

2020.06.09 連載コラム

ナレッジパートナー:須知 義弘


今回は、民間の貿易保険という観点からは若干ずれるかもしれないが、新型コロナウイルスがプロジェクトに与える影響について考えてみたい。

ここで問題となるのが、新型コロナウイルス(によって生じたパンデミック)が、不可抗力条項(Force Majeure (FM) 条項)に含まれているかどうかという点である。FM条項とは、「通常、例外的な出来事であって、契約当事者の責めに帰することができず、かつ、契約当事者が制御できないものを指す。FMに該当する場合、当事者は義務の履行を一時的に停止することができ、不可効力の影響が長期にわたるときには、当該当事者が契約を解除できることもある」というものである。特に契約が英米法を準拠法としている場合は、何がFMに該当するかを明確にしておくべきである。さもないと、不必要な義務の履行を負いかねない。サンプルのFM条項は以下の通りである。

Force Majeure. Except with respect to payment obligations under this Agreement, no party shall be liable for, nor shall such party be considered in breach of this Agreement due to, any failure to perform its obligations under this Agreement as a result of a cause beyond its control, including any act of God or a public enemy or terrorist, act of any military, civil or regulatory authority, change in any law or regulation, fire, flood, earthquake, storm or other like event, disruption or outage of communications, power or other utility, labor problem, unavailability of supplies, or any other cause, whether similar or dissimilar to any of the foregoing, which could not have been prevented by such party with reasonable care.

赤字で記載された箇所は、実際にどのような事象がFMにあたるかといことを指している。最後に”any other cause, whether similar or dissimilar to any of the foregoing”とあるので、パンデミックと具体的に書かれていなくてもFMに含まれそうだが、英米法では具体的に例示されている事象だけをFMとみなすという判例もあるようなので、きちんと例示する必要があるだろう。

FM条項の重要性について具体例を挙げて説明したい。たとえば海外の建設工事を請け負った日本の建設会社Aがあったとする。パンデミックにより建設工事が継続できなくなり、最終的に請負契約がキャンセルになったとする。契約内容にもよるが、建設会社Aが行った工事の代金は、パンデミックが請負契約のFMに規定されていようがいまいが、債権者として通常発注者から回収できる(物を売った、或いはサービスを提供した時の代金、または貸したお金を返してもらうなどの金銭債権についてはFM条項を適用にならない)。一方、建設会社Aは、工事を行うという義務を負った債務者であり、この義務に履行責任はパンデミックがFM条項に規定されているか否かで大きく異なってくる。パンデミックがFM条項に規定されていれば、工事が中断またはキャンセルになったとしても、それ以降の履行義務は負うことはない。しかし、規定されていなければ履行義務を負うことになり、工事が続行できなければ発注者が履行(パフォーマンス)ボンドの保証履行請求を行うことになる。保証履行請求を受けた金融機関は発注者に保証金額を払うと同時に、建設会社Aに求償を行う(下図参照)。

建設会社Aは、パンデミックがFM条項も規定されていないが故に、工事が続行できなかった場合の損害を被ってしまうことになる。従って、想定される事象は全てFMに含めておくことが必要になるであろう。

更に、保証契約がOn Demand(要求払い)の場合、パンデミックがFM条項に規定されていたとしても、パフォーマンスボンドが保証履行請求されることがある。そのようなリスクをカバーするのが、第12回コラムで紹介した輸出保証保険(Wrongful Calling of Guarantee)である。

須知義弘

*アイキャッチ Photo by Michał Parzuchowski on Unsplash

【バックナンバー】
【コラム】第18回 民間の貿易保険(取引信用保険、ポリティカルリスク保険、ストラクチャードクレジット保険)の活用について(18)
【コラム】第17回 民間の貿易保険(取引信用保険、ポリティカルリスク保険、ストラクチャードクレジット保険)の活用について(17)
【コラム】第16回 民間の貿易保険(取引信用保険、ポリティカルリスク保険、ストラクチャードクレジット保険)の活用について(16)
【コラム】第15回 民間の貿易保険(取引信用保険、ポリティカルリスク保険、ストラクチャードクレジット保険)の活用について(15)
【コラム】第14回 民間の貿易保険(取引信用保険、ポリティカルリスク保険、ストラクチャードクレジット保険)の活用について(14)
【コラム】第13回 民間の貿易保険(取引信用保険、ポリティカルリスク保険、ストラクチャードクレジット保険)の活用について(13)
【コラム】第12回 民間の貿易保険(取引信用保険、ポリティカルリスク保険、ストラクチャードクレジット保険)の活用について(12)
【コラム】第11回 民間の貿易保険(取引信用保険、ポリティカルリスク保険、ストラクチャードクレジット保険)の活用について(11)
【コラム】第10回 民間の貿易保険(取引信用保険、ポリティカルリスク保険、ストラクチャードクレジット保険)の活用について(10)
【コラム】第9回 民間の貿易保険(取引信用保険、ポリティカルリスク保険、ストラクチャードクレジット保険)の活用について(9)

, , , , , , ,


デロイト トーマツ|インフラ・PPPアドバイザリー(IPA)
ISS-アイ・エス・エス

月別アーカイブ