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【コラム】第4回 民間の貿易保険(取引信用保険、ポリティカルリスク保険、ストラクチャードクレジット保険)の活用について(4)

2019.10.22 連載コラム

ナレッジパートナー:須知 義弘


さて、今回は民間の貿易保険では、そもそもどのような事象が起きたときに保険金が払われるのかをみていきたい。第1回のコラムで、「現在のトレンドは…売掛債権だけでなく、契約書上に定められた相手方の支払義務が履行されなかった場合にカバーされる不払保険という位置づけが強く、様々な契約の不払いリスクを持つケースが出てきている」と書いた。信用危険、非常危険に関わらず、対象となる契約が不払いになった時にカバーされるのだが、保険契約には免責事項が付帯され、免責事項に該当した場合には保険金は支払われない。不払いを対象とした保険の主な免責事項は以下の通りである。

  • 保険契約者/被保険者による重過失、故意、または不正な作為もしくは不作為
  • 保険契約者/被保険者と取引先の間の紛争であって、その紛争が保険会社の満足できるような内容により解決されておらず、または取引先、その法定代理人もしくは利害関係ある承継者の有効かつ法的に執行可能な債務である旨決定されていない場合
  • 保険契約者/被保険者が保険契約書上の保証および誓約を遵守しないこと
  • 保険契約者/被保険者もしくはその代理人が契約書上の契約の条件に従わないこと
  • 核反応、核放射、放射能汚染
  • 中華人民共和国、フランス、イギリス、ロシア連邦、およびアメリカ合衆国の5か国の何れかの国の間の戦争

貿易保険という名前はついているものの、貿易保険には、物・サービスの売買を対象とした純粋な“貿易”保険に加えて、投資や融資に対してのカバーも含まれる。冒頭に述べた、不払保険が現在のトレンドという見方は、特に、銀行が契約者となる融資契約の不払いに当てはまる。

2000年に入ったころの融資契約の不払いを持つ保険は、相手方(債務者)が公的機関でその不払いを持つ保険(これにはあらゆる事由の不払いが含まれる)と、相手方が民間企業の場合は、非常危険に限定してカバーするものが多かった(すなわち、融資契約において、民間企業の信用危険をカバーする保険はほぼなかった)。ところが、2010年頃から民間企業の信用危険をカバーする保険がマーケットに浸透し始め、今では、運転資金融資、バイヤーズクレジット、プロジェクトファイナンス、アセットファインナス、買収ファイナンス等、どのような融資契約であれ事由を限定しない不払いの保険が主流となっている。

これには、バーゼル銀行監査委員会が公表している、国際的に活動する銀行の自己資本比率等に関する国際統一基準であるバーゼル規制(BIS規制ともいう)が関連していると考えられる。1988年に最初のバーゼル規制(いわゆるバーゼルI)が制定されて以来、2004年にバーゼルIIが制定され、そして現時点においてはバーゼルIIIが段階的に実施されている。バーゼル規制は、銀行の自己資本比率(自己資本比率とは、自己資本をリスクアセットで割ったものなので、自己資本が一定であれば、リスクアセットが小さくなればなるほど、自己資本比率は大きくなる)を明確化する役割があるが、その為にはリスクアセットの一部である信用リスクの精緻化が求められる(バーゼル規制におけるリスクアセットについては、金融庁や日本銀行が公表している資料を参照いただきたい)。非常に単純化すると、貸出先(国、大企業、中堅企業、中小企業、個人など)のリスクに応じて、一定の掛け目をかけ、信用リスクを数値化しようとするものである。

ここに、不払保険が浸透してきた理由がある。バーゼル規制の「保証・クレジットスワップ」という項に、「保全部分について、債務者のリスクウエイト(掛け目)の代わりに保証者のリスクウェイトを適用できる」と規定されており、保険もこの保証と認められている。従い、相手方のリスクウェイトより、保証者(保険会社)のリスクウェイトが低い場合には、保険会社のリスクウェイトを使用し、より小さい信用リスクを算出することができるため自己資本比率の改善に寄与することになる。

但し、不払保険が保証と認められる為には、保険の内容を保証に近づける必要がある。具体的な例としては、先に述べた免責事項のうち、「核反応、核放射、放射能汚染」と「中華人民共和国、フランス、イギリス、ロシア連邦、およびアメリカ合衆国の5か国の何れかの国の間の戦争」は削除されている。また、リスクウェイトが小さくなるといっても保険を購入するには保険料という追加の費用が発生するので、保険料を加味した上での、収益性・安定性を考慮する必要がある。

次回以降は、非常危険においてどのようなときに保険金が支払われるのかをみていきたい。

須知義弘

*アイキャッチ Photo by Uwe Conrad on Unsplash

【バックナンバー】
【コラム】第3回 民間の貿易保険(取引信用保険、ポリティカルリスク保険、ストラクチャードクレジット保険)の活用について(3)
【コラム】第2回 民間の貿易保険(取引信用保険、ポリティカルリスク保険、ストラクチャードクレジット保険)の活用について(2)
【コラム】第1回 民間の貿易保険(取引信用保険、ポリティカルリスク保険、ストラクチャードクレジット保険)の活用について(1)

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