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【コラム】第11回 民間の貿易保険(取引信用保険、ポリティカルリスク保険、ストラクチャードクレジット保険)の活用について(11)

2020.02.11 連載コラム

ナレッジパートナー:須知 義弘


前回は投資協定と「仲裁結果の不履行」のカバーの関係について説明したが、これはあくまで仲裁結果(判断)がでることを前提としたものである。仲裁結果が出ない場合、たとえば相手先国政府が仲裁のプロセスに介入し、仲裁判断が出せなくなったというようなリスクはどのようにヘッジすればよいのだろうか。

詳細は割愛するが、1990年代後半、アメリカのエネルギー会社が、インドネシア政府に対して、その保証不履行に関して仲裁の申し立てを行った。ここで、インドネシア政府は、自分たちに不利な仲裁結果が出る可能性が高いと判断し、実質的に仲裁手続を進行させないような手段をとった。仲裁手続きはオランダのハーグで開かれることになっていたのだが、インドネシア政府は、3名の仲裁人のうち、自らが選定したインドネシア人の教授に接触を試みた。まず、この教授がハーグに出発する前に滞在していたワシントンDCに政府職員を派遣して接触させ、国際仲裁を進めるなと警告した。この教授はそれでもハーグに向けて出発したが、インドネシア政府職員は、オランダのアムステルダム国際空港でこの教授に再度接触し、国際仲裁のヒアリングに出席しないよう働きかけた。残りの2名の仲裁人への連絡も禁止されこの教授は、大使館職員と一緒に空港近くのホテルに宿泊、そのまま一緒にジャカルタへの帰国の途につかざるを得なくなってしまった。実際の仲裁は残りの2名の仲裁人で行われ、最終的には仲裁判断が出されたため、仲裁プロセスを止めるというインドネシア政府の計画は失敗に終わったが、仲裁プロセス自体が止まってしまう可能性は十分にあったというわけである。また、これ以外にも、相手先国政府が、現地裁判所に強制的に仲裁の進行の差し止め命令を出させたり、仲裁の相手方に過度な課税を課したりして、仲裁プロセスの進行を止めてしまう可能性もある。

このような場合に発動するのが、公正な手続きの否認(Denial of Justice)である。このカバーは、世界銀行の一機関であるMIGA(Multilateral Investment Guarantee Agency/多数国間投資保証機関)や民間の保険会社が提供している。主流となっている約款の内容は以下の通りである。

相手先国政府(政府の機関、省庁、当該国がコントロールしている企業も含む)の紛争解決手段における作為・不作為であり、待機期間中継続し、1)紛争解決手段の進行を不可能にする、または2)紛争解決手段の進行に不可欠な被保険者または特別目的会社の代理人の身の安全を脅かすことによる生じる損害。

但し、被保険者または特別目的会社が紛争解決手段に対して、紛争解決の申し立てを行っていること。かつ、待機期間中は、紛争解決手段を正常に機能させるような最大限の努力をすること。


また、以下の行為は「公正な手続きの否認」にはあたらないと定義されることが多い。

  • 紛争解決手段に対する理不尽な介入とみなされないような、申し立てに対する激しい弁護から生じる損害
  • 紛争解決手段上定められたスケジュールを遵守しないこと等を含む、被保険者または特別目的会社による作為・不作為から生じる損害
  • 相手先国の裁判所が、仲裁判断の結果を執行しないこと、執行を否認することから生じる損害

このカバーで支払う保険金だが、投資に対する保険であれば、被保険者の特別目的会社への投資額に縮小てん補率をかけたもの、また融資に対する保険であれば、融資金額に縮小てん補率をかけたものとなる。但し、保険会社の保険金支払い後に仲裁プロセスが再開され、被保険者・特別目的会社に有利な仲裁判断が出て、損害額を仲裁から回収した場合は、受領した保険金を保険会社に返却する必要がある。

「仲裁手続きの不履行」、「公正な手続きの否認」とも、投資に対する保険、融資に対する保険の副次的なカバーと思われるかもしれないが、海外所在の資産を守るという意味において、是非とも付保の検討をしていただきたいカバーである。

須知義弘

*アイキャッチ Photo by ERROR 420 📷 on Unsplash

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