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【コラム】第2回 民間の貿易保険(取引信用保険、ポリティカルリスク保険、ストラクチャードクレジット保険)の活用について(2)

2019.09.24 連載コラム

ナレッジパートナー:須知 義弘


今回は民間の貿易保険の種類について説明していきたい。民間の貿易保険の最大のマーケットはロンドンであり、主としてロンドンで使用されている分類は以下の通りである。

  • Contract Frustration もしくはTrade Risks Political (CF)
  • Non-Payment by Private Obligor もしくはTrade Risks Commercial (CR) 
  • Non-Trade Public / Private (NT)
  • Political Risk Insurance (PR)

Contract FrustrationもしくはTrade Risks Political (CF) は、日本語では契約不履行保険などと訳されることが多い。これは、物の売買やサービスの提供、あるいはバイヤーズクレジット(物を買う為の融資)やプロジェクトファイナンスなどの貿易やプロジェクトに関しての取引において、相手先が公的機関(国、省庁、地方公共団体、国有企業など)の場合の不払いリスクを持つ保険である。一方、Non-Payment by Private Obligor もしくはTrade Risks Commercial (CR) は、同じ貿易・プロジェクトに関しての取引ではあるものの、相手先が民間企業の場合の不払いリスクを持つ保険である。日本のマーケットである程度浸透している取引信用保険はこの分類に入る。

Non-Trade (NT) は相手方が公的機関・民間企業を問わず、また貿易やプロジェクトとは関係なく、相手方の債務不履行(主に不払いリスクだが、それに限定されず契約上の債務不履行を幅広くカバーすることが可能)をカバーするものである。典型的な例として、金融機関による運転資金融資が挙げられる。最後にPolitical Risk Insurance (PR)は、相手方が公的機関・民間企業を問わないのはNon-Tradeと同じだが、相手方が債務不履行になる原因がPolitical Risk(非常危険)に限定されるという点が異なる。

ここで、Credit Risk(信用危険)とPolitical Risk(非常危険)について説明しておきたい。信用危険とは、相手方の責により債務不履行が起こることである。相手方が倒産したり、倒産しないまでも財務状況が悪化し債務を履行できないケースなどがこれに当たる。一方、非常危険は、相手方の責によらない債務不履行である。たとえば、日本の会社Aが、ある新興国Bの会社Cに物を売る場合で、決済通貨がドルであると想定しよう。Cが代金をAに払うためには、Bの現地通貨をドルに換えて支払わなければならないが、B政府がこの為替交換を制限、またはドルへの交換はできたがドル送金を規制することにより債務不履行に陥るケースがこれに当たる。Cにしてみれば代金決済する資金を十分に持っているにも関わらず、B政府の外貨政策によって代金決済できない。これが非常危険の典型的な例である。

他の非常危険の例としては、接収・収用・国有化や戦争・政治的暴力が挙げられる。接収・収用・国有化とは、貿易や投資・融資先の政府(現地政府)が、相手方やその資産を接収・収用・国有化してしまうことである(尚、接収・収用・国有化の単語にはそれぞれ別の定義があるかもしれないが、ここでは三つの単語をまとめて「現地政府の作為により相手方がその国で操業できなくなってしまうこと」とする)。ウゴ・チャベス氏が大統領であった一昔前のベネズエラでは、ベネズエラ政府による国内企業・外資系企業の直接的な国有化が頻繁に行われていたことが記憶にあるだろう。昨今の接収・収用・国有化はそれほど単純なものではなく、たとえば、鉱山プロジェクトで予め決められていた現地政府へのロイヤリティーが大幅に上げられたことにより、プロジェクトが立ち行かなくなるなど、間接的な接収・収用・国有化が一般的である。このような接収・収用・国有化を忍び寄る収用(Creeping Expropriation)と呼ぶことがある。尚、接収・収用・国有化などカバー内容の細かい点については、後日改めて説明していく。

また、戦争・政治的暴力は、戦争や内戦、テロ、暴動、騒擾など政治的意図を持つ暴力行為により、取引の相手方が債務不履行を起こした時の不払いリスクをカバーするものである。たとえば取引先の国が内戦状態になり、その取引先が購入代金を払えなくなったり、融資の利払いを行えなくなったりする場合がこれにあたる。

次回は、民間の貿易保険の種類についての補足説明と、マーケットの状況について説明する。

須知義弘

*アイキャッチ Photo by Thomas Kelley on Unsplash

【バックナンバー】
【コラム】第1回 民間の貿易保険(取引信用保険、ポリティカルリスク保険、ストラクチャードクレジット保険)の活用について(1)

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デロイト トーマツ|インフラ・PPPアドバイザリー(IPA)
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