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【コラム】第1回 民間の貿易保険(取引信用保険、ポリティカルリスク保険、ストラクチャードクレジット保険)の活用について(1)

2019.09.10 連載コラム

ナレッジパートナー:須知 義弘


インフラトの読者は貿易保険と聞いて、おおよそどのようなリスクを持つ保険かということはピンとくるだろう。今回は、貿易保険でも民間の保険会社が提供する保険商品について、特にその種類、活用方法、契約者の留意点、保険会社の引受上のポイント、最近のトレンド等について論じてみたい。

そもそも貿易保険という単語は日本貿易保険(NEXI)が使っているものなので、民間の貿易保険という言葉自体がおかしいかもしれないが、ここでは民間保険会社が扱う取引信用保険、ポリティカルリスク保険、ストラクチャードファイナンス保険を総称して民間の貿易保険という(正確には国内取引をカバーすることもあるので、「貿易」という言葉を付けること自体がおかしいかもしれないが…)。

日本政府は「インフラ輸出戦略」を2013年に構築し、その後戦略を毎年度改定し、今日に至っている。また、先月には横浜で第7回アフリカ開発会議(TICAD7)が開かれ、ラストフロンティアとしてのアフリカに対しての貿易・投資への機運も高まっている。そもそも、これらの取り組みは、官民一体となり、世界のインフラ需要を戦略的に取り込み、日本国の経済再生の確実な実現につなげることを目指している。加えて、各国の経済・社会基盤強化や地域の安定と繁栄の確保、更には国連の掲げる持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)達成のため、各国・地域におけるハード・ソフト両面での質の高いインフラ整備に積極的に貢献していくことを目標としている。とはいえ、保険の分野においては「官民一体」という部分が欠如している印象が拭い去れない。

たとえば、NEXIは、OECD所属国の輸出信用機関(Export Credit Agency (ECA))として、OECDガイドラインを遵守しなければならない。ともなると、2年超の支払いタームが設定されている取引については、NEXIでカバーできる支払方法がかなり限定される。このようなケースで民間の保険会社を単独または民間の保険とNEXIの保険を組み合わせて使うことにより、より柔軟な支払タームの提供が可能になり、日本の輸出者、または金融機関の競争力を高めることができるであろう。また、日本の国益がないような取引(まれかもしれないが、外国政府が外国産の機械を購入する際に、日本の銀行が資金を提供するなどの取引、あるいは純粋な運転資金の融資など)には、NEXIはカバーを提供できないが、民間の保険会社はカバーの提供が可能である。

一方、NEXIも2004年に貿易保険が民間に開放されてからは、商品を進化させてきている。先月のTICAD7においても、IsDB(イスラム開発銀行)、ICIEC(イスラム投資・輸出保険機関)、ATI(アフリカ貿易保険機構)とMOU(協力覚書)を締結し、アフリカ向けのビジネスに限定されるものの、今まで民間保険会社の独断場であったバイヤーズクレジットの頭金部分のカバーもこれらの機関と協力することによって提供可能となった。OECDガイドラインを必ずしも遵守する必要がない機関と提携することで、100%のカバーを提供するという画期的な方法である(仕組みを簡単に図示する)。

このように元々柔軟性のある民間保険と、日本という国の後ろ盾がありかつ年々進化しているNEXIの協力が更に強化されれば、「インフラ輸出」だけでなく、日本からの投融資・貿易のサポートとなることは議論の余地がないだろう。

貿易保険は、売掛債権をカバーする信用保険として、19世紀の終わりに生まれ、第一次世界大戦と第二次世界大戦の間頃に、主として西ヨーロッパで発展してきたと言われている。西ヨーロッパは全体の市場としては大きいが、一つの国だけでは市場としての大きさは十分ではなく、どうしても他国との貿易が必要だった。隣国或いは近くの国といえども外国であるため(当時は通貨も異なっていた)、取引先の支払リスクを取れないことから貿易保険が発達したと言われている。

このような歴史的背景を持つ貿易保険だが、現在のトレンドは、特に民間保険において、売掛債権だけでなく、契約書上に定められた相手方の支払義務が履行されなかった場合にカバーされる不払保険という位置づけが強く、様々な契約の不払いリスクを持つケースが出てきている。次回以降は、まず、民間の貿易保険の種類について論じていきたい。

須知義弘

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デロイト トーマツ|インフラ・PPPアドバイザリー(IPA)
ISS-アイ・エス・エス

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