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【コラム】第5回 民間の貿易保険(取引信用保険、ポリティカルリスク保険、ストラクチャードクレジット保険)の活用について(5)

2019.11.12 連載コラム

ナレッジパートナー:須知 義弘


今回は非常危険、特に接収・収用・国有化において、どのような場合に保険金が支払われるかを見ていきたい。

このコラムの第2回でも述べたとおり、接収・収用・国有化とは、貿易や投資・融資先の政府(現地政府)が相手方やその資産を接収・収用・国有化してしまうことである。接収・収用・国有化(英語では、Confiscation、Expropriation、Nationalization)の意味の違いだが、辞書にはその意味の違いが示されているが、民間貿易保険の世界ではその違いを考慮する必要はない。この3つの単語を一つの概念で捉えていただければよいだろう(英語では、”CEN”とそれぞれの頭文字をとって表現することが多い)。この接収・収用・国有化において、具体的にどのようなときにカバーされるかは、個々の約款を見ていく必要がある。

たとえば、貿易取引において、取引先がその所在国政府(現地政府)に接収されたがゆえに、支払いが滞ってしまう場合は、「取引先所在国政府の取引先の収用、または恣意的な介入により、取引先が契約書上の義務を履行できなくなった」時に保険金が支払われる。要するに、取引先を国の所有物にしてしまうという接収・収用・国有化という行為そのものも該当し、また、現地政府が保険契約者と取引先の契約に介入することにより取引先の支払いができなくなるといったもう少し広い意味での国の行為もカバーの対象となる。

融資契約における接収・収用・国有化については、貿易取引に比較して詳細にカバーの内容が定義されている。一般的には、以下の事が借入人所在国政府(現地政府)の行為により起こった時にカバーの対象となる。

  1. 借入人が予定している支払いを妨げる行為、または被保険者が借入人からの支払いを受けられなくする行為で、当該融資契約の債務不履行に直接的に影響するもの
  2. 借入人の資産を奪う行為で、その資産が奪われることで借入人の事業が制限され、当該融資契約の債務不履行に直接的に影響するもの
  3. 信用危険による当該融資契約の債務不履行が起こった後、担保権や支払保証を受ける権利など、被保険者の債権者としての権利を奪う行為
  4. 当該融資契約の支払いを行う為のファンドを、使用しまた管理する権利を被保険者または借入人から奪う行為で、当該融資契約の債務不履行に直接的に影響するもの

また、海外に子会社を設立した時のカバーである海外投資保険の接収・収用・国有化については、以下の3点が一般的なカバーの対象となる。

  1. 明確かつ永久的に被保険者から投資先子会社の株式の全部または一部をはく奪する投資先政府の行為
  2. 明確かつ永久的に投資先子会社から固定資産および/または流動資産のすべてまたは一部をはく奪する投資先政府の行為
  3. 投資先子会社の事業を永久的かつ完全に停止させるために、明確かつ恣意的に投資先子会社の活動を禁止しまたは制限する行為

これも第2回のコラムに書いたが、ウゴ・チャベス氏が大統領であった一昔前のベネズエラでは、ベネズエラ政府による国内企業・外資系企業の直接的な国有化が頻繁に行われていたことが記憶にあるだろう。昨今の接収・収用・国有化はそれほど単純なものではなく、たとえば、鉱山プロジェクトで予め決められていた現地政府へのロイヤリティーが大幅に上げられたことにより、プロジェクトがたちいかなくなるなど、間接的な接収・収用・国有化が一般的である。このような接収・収用・国有化を忍び寄る収用(Creeping Expropriation)と呼ぶことがある。もちろん、個別のケースが保険金支払いに該当するかどうかは精査する必要があるものの、前述のロイヤリティーのケースは海外投資保険のカバー項目のうち(ⅲ)でカバーできる可能性があると言えよう。

接収・収用・国有化において、気をつけなければならないのは免責事項である。通常、民間貿易保険では、相手国政府が1)自国民のための公衆衛生や安全を確保する行為、2)税金を徴収すること等により国の収入を上げる行為、3)環境を守る行為、4)経済活動を規制する行為など、公共の目的のための行為は免責となっている。これらの行為は独立国が国家を運営していく上で、あるいは国民の生活・安全・健康を守る当然の権利として認められているものである。従ってこれらの行為として認識されるものは、保険約款上の接収・収用・国有化には該当しないというのが一般的な解釈であることをご留意いただきたい。

次回は、非常危険の内、接収・収用・国有化以外のカバーについて見ていきたい。

須知義弘

*アイキャッチ Photo by Kevin Keith on Unsplash

【バックナンバー】
【コラム】第4回 民間の貿易保険(取引信用保険、ポリティカルリスク保険、ストラクチャードクレジット保険)の活用について(4)
【コラム】第3回 民間の貿易保険(取引信用保険、ポリティカルリスク保険、ストラクチャードクレジット保険)の活用について(3)
【コラム】第2回 民間の貿易保険(取引信用保険、ポリティカルリスク保険、ストラクチャードクレジット保険)の活用について(2)
【コラム】第1回 民間の貿易保険(取引信用保険、ポリティカルリスク保険、ストラクチャードクレジット保険)の活用について(1)

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デロイト トーマツ|インフラ・PPPアドバイザリー(IPA)
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