2026.01.22
【コラム】(プロファイバンカーの視座)第170回 プロジェクトファイナンス超入門(34)
2025.04.24 連載コラム
【借入金利の水準はどのように決まるのか】
前回と前々回は主要国の政策金利のお話をしてきました。主要国の各通貨は異なるわけですが、通貨が異なると金利も異なるということを改めてご確認いただきたいと思います。そして、前回は主要国の政策金利の過去約3年間の推移を観てきましたが、米国やEUは引き下げ局面にある一方、日本は引き上げ局面にあるという現在の動向もご確認いただけたかと思います。
主要国の政策金利が異なるということは、実際にそれぞれの国で事業推進のためにその国の通貨でお金を借りたとすると、その借入金利の水準も当然異なってきます。以前にもお話しましたが、実際の借入金利の水準というのは、「基準レート」に「ローンマージン」を加算した水準になります(注1)。「基準レート」はおおむね政策金利の水準と一致しています。一方、「ローンマージン」の水準は一律ではありません。
「ローンマージン」の水準は、通常の企業向けの融資であれば借主となる企業の信用力によって決まります。借主となる企業の信用力が高ければ「ローンマージン」は低くなり、逆に借主となる企業の信用力が低ければ「ローンマージン」は高くなります。
【企業の信用力(信用格付)とローンマージン】(注2)

企業の信用力はどうやって分かるのか。大手の上場企業であれば、社債を発行しているので信用格付(クレジット・レーティング)を持っています(注3)。信用格付を見ることによって、その企業の信用力が分かります。その企業の信用格付が分かれば、その企業に対する融資の「ローンマージン」はだいたい決まってきます。企業向け融資の世界では信用格付とローンマージンとの間には密接な相関関係が見られます(注4)。
さて、プロジェクトファイナンスの場合、「ローンマージン」の水準はどうやって決まるのでしょうか。プロジェクトファイナンスは企業向けの融資ではなく、事業向けの融資です。しかしながら、「ローンマージン」の基本的な考え方は企業向けの融資の場合と同じです。すなわち、その事業の信用力が高ければ「ローンマージン」は低くなり、逆にその事業の信用力が低ければ「ローンマージン」は高くなります。そうするとここで少し疑問を持たれた方もおられると思います。どういう疑問かというと、「企業の信用力なら信用格付などで分かりますが、事業の信用力はどうやって評価するのでしょうか」ごもっともな疑問です。
プロジェクトファイナンスの多くは銀行による融資(ローン)です。社債を発行することは非常に稀です(注5)。銀行はプロジェクトファイナンスを供与するに当たって審査を行うわけですが、その審査の眼目は事業の信用力を見極めることです。銀行の関係者が内部でよく使う言い回しは「事業の信用力」という表現よりも、「返済はできるのか」とか「キャッシュフローは十分か」といった表現です。「返済はできるのか」「キャッシュフローは十分か」といった表現は、突き詰めれば「事業の信用力」の良し悪しを指していると考えてよろしいかと思います。従って、プロジェクトファイナンスの場合、専らプロジェクトファイナンスを供与する銀行が事業の信用力を個々に評価し、「ローンマージン」の水準を決めているということになります。つまり、プロジェクトファイナンスの場合、プロジェクトファイナンスを供与する銀行が事業の良し悪しによって借入金利の水準を決めているということです。
さらに実務面について申し上げると、プロジェクトファイナンスの「ローンマージン」を決めているのは銀行だとは言うものの、銀行も事業主も既往の類似案件を常に参照しているので、「ローンマージン」の水準はおおよそ想像ができます。そして、銀行間の競争が激しいときにはローンマージンが引き下がってゆく傾向があります。一方で、ある国でトラブルが発生したりすると、その国の事業に対するプロジェクトファイナンスのローンマージンが上昇したり、事態が深刻だとプロジェクトファイナンスの供与を停止する銀行が出てきたりします。つまり、事業そのものの信用力に変化が無くても、事業の所在国や市場環境の変化によって「ローンマージン」が上下することはよくあります。途上国での資源開発案件向けのプロジェクトファイナンスなどはその好例です。「事業自体は良いのだけれど、所在国がねぇ」といった関係者の嘆息を聞くことは少なくありません。
注1)
コラム第97回をご覧ください。
注2)
出典は内閣府のホームページ https://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je03/03-2-2-06z.html?utm_source=chatgpt.com データは少し古いですが、信用格付とローンマージンとの間に密接な相関関係があることは今も昔も変わりません。なお、図中のbpというのはベイシスポイント(basis point)のことで、1bpは1%の100分の1。すなわち、1%=100bp。
注3)
念のため申し上げると、信用格付は厳密には企業そのものを格付しているのではありません。企業の発行する個々の社債を格付けしています。従って、同じ企業が発行する社債であっても、社債の種類によって信用格付が異なります。一般に企業が発行する社債の中では劣後債の信用格付は普通社債の信用格付を下回ります。もっとも、企業の発行する普通社債の信用格付を比較すれば、企業自体の信用格付を比較するのと同じ効果が得られます。実務の現場で「その企業の信用格付は?」と言えば、通常その企業の普通社債の信用格付のことを指しています。なお、信用格付の制度は、19世紀後半鉄道ブームのアメリカで生まれました。世界的に有力な格付機関にはS&P、Moody’s、Fitchなどがあります。
注4)
信用格付以外の要素でローンマージンに影響を与えるものには、担保の有無、融資期間、資金使途、業界の成長性・安定性、当該銀行との取引関係、競合先銀行との競争などがあります。
注5)
その主な理由についてはコラム第168回をご覧ください。
プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明
*アイキャッチ UnsplashのCésar Badilla Mirandaが撮影した写真
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【バックナンバー】
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・【コラム】(プロファイバンカーの視座)第168回 プロジェクトファイナンス超入門(32)
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