【コラム】(プロファイバンカーの視座)第164回 プロジェクトファイナンス超入門(28)

2025.01.23 連載コラム

ナレッジパートナー:井上 義明


【なぜ米国の政策金利は引き上げられたのか】

前回は「2023年と2024年でそれぞれ前年よりもプロジェクトファイナンスの市場が縮小しているのはどうしてなのか」という問いかけに対して、その主要な要因は米国の政策金利の引き上げのためではないかという説明をご紹介しました。これはあくまで仮説です。しかし、他に有力な原因が見当たらないので、これは有力な仮説ではないかと思っています。繰り返しになりますが、米国の政策金利の引き上げは2022年3月から2023年7月までの間に計11回、累計5.25%の引き上げが行われました。2022年3月以前はほぼゼロだった政策金利が1年4か月の間に5%以上も引き上げられたわけですから、その影響は大きいです。

さて、ここでみなさん、もう一度立ち止まって考えてみましょう。そして、「どうして米国はこんなに急激に政策金利を大幅に引き上げたのか」という問いを考えてみましょう。プロジェクトファイナンス市場をわずかとは言え縮小させた政策金利の引き上げはどうして行われたのでしょうか。手短にその解答を先に申し上げておきます。米国が政策金利を短期間に大幅に引き上げたのは「物価上昇(インフレーション)を抑えるため」です。実はコロナウイルスの感染拡大が米国で落ち着き始めた2021年ごろから、米国では物価の上昇が顕著になってきていました。この物価上昇(インフレーション)を抑え込むために、米国は政策金利を大急ぎで引き上げました。

以下に米国の消費者物価指数の推移をグラフでお示ししておきます。

【米国の物価上昇(インフレーション)】(注)

(※クリックすると大きな画像で見ることができます。)

上記のグラフは米国の2021年以降の月次の消費者物価指数の前年同月比の増減率をグラフにしたものです。このグラフを見ますと、米国では2021年以降物価が上昇し始め、2022年中ごろには前年同月比9%前後の物価上昇(インフレーション)のピークを迎えました。一方で、物価上昇に危機感を覚えたFRBは2022年3月から政策金利を引き上げ始めました。その目的はもちろんこの物価上昇(インフレーション)を抑え込むためです。上記の表を見ると、その功あってか、2023年中ごろには物価上昇(インフレーション)が落ち着いてきました。FRBが最後の政策金利引き上げを行ったのは2023年7月でした。物価上昇(インフレーション)は概ね抑え込むことができたと判断したからだと思います。

ちなみに、FRBは2024年9月から政策金利の引き下げを開始しています。9月に続き、11月と12月にも引き下げを行い、2024年年末までに合計3回、累計1.00%の政策金利の引き下げを行いました。(次回に続く)

(注)
米国の物価上昇(インフレーション)のグラフはFederal Reserve Bank of St. LouisのHP上で作成し、これを転載させていただきました。

プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明

*アイキャッチ  UnsplashFree Nomadが撮影した写真

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