2025.04.24
【コラム】(プロファイバンカーの視座)第169回 プロジェクトファイナンス超入門(33)
2025.04.10 連載コラム
【主要国の金利水準の推移】
前回は主要国の通貨の金利水準は同じではないというお話をしてきました。そして、それぞれの主要国で事業を推進するために借入を行うとすると、それぞれの主要国の通貨で借入を行うことが多くなるというお話もしました。借入を行うと、借入利息を支払うわけですが、借入利息の金額を決定する借入金利の水準がそれぞれの主要国で異なるということは、事業・ビジネスを推進するうえで看過することはできません。
前回グラフでお示ししました通り、現在英国、米国、オーストラリアの通貨の政策金利の水準は4%台です。実際の借入金利の水準は、これらの政策金利の水準(あるいはその近似値の水準)に銀行のマージンを上乗せしたものになります。現時点で英国、米国、オーストラリアで借入をすると、事業の信用力次第ではありますが、実際の借入金利の水準は6%前後あるいは6%を超えた水準になるはずです。一方、日本の政策金利は現在主要国の中で最も低く、0.5%です。従って、これに銀行のマージンを上乗せた実際の借入金利の水準は1%台あるいはせいぜい2%程度かと思われます。
前回は主要国の政策金利の水準が異なるという点をハイライトしたわけですが、これはある一時点(前回の場合であれば2025年3月20日時点)での政策金利の違いを比較してみたものです。ある一時点での主要国の政策金利の水準は、いつの時点のものかによって当然異なってきます。このようなある一時点での分析はもちろん重要であり必要ですが、もう一歩踏み込んで分析の視点を広げてみたいと思います。どういうことかと申しますと、主要国の政策金利の水準を時系列で観てゆき、「これまで上昇してきたのか、あるいは下降してきたのか」と動的に観てゆくということです。
ものごとの分析には静的な分析と動的な分析があろうか思います。ある一時点を写真で撮影したかのように切り取り、じっくり分析するのはいわば静的な分析です。これはこれである一時点の事実をしっかり捉えるために重要で必要なプロセスです。一方、ものごとの推移を時系列で分析するのはいわば動的な分析です。ものごとはこれまでどのように変化してきたのか。これまでの変化の推移をよく分析することです。そうすることによって、これからどう変化するのかが予測しやすくなります。静的な分析は「現在」をよく観る、動的な分析は「過去」をよく観る、そして「将来」を予測する、と言い替えてもよろしいかと思います。
主要国の政策金利について動的な分析をするということは、主要国の政策金利はこれまでどのように変化してきたのかを時系列で観てゆくということになります。下記に2022年1月から2025年3月までの約3年間の米国、EU、日本の政策金利の推移をグラフにしてみました。
【主要国の政策金利の推移】
いかがでしょうか。
米国とEUは2022年以降急速に政策金利を引き上げていました。そして、2024年には政策金利の引き下げを開始しています。もう少し子細に観ると、2022年以降の政策金利の引き上げは米国が先行し、EUがそれを追いかける状態でした。しかし、2024年の政策金利の引き下げはEUが先行しました。さらに、政策金利の水準の高さですが、米国の方がEUよりも常に高い状態が続いています。
一方、日本ですが、日本は2022年以降米国とEUが政策金利を引き上げても、追随しませんでした。日本がマイナス金利政策を解除し、政策金利を0%にしたのが2024年3月です。2024年7月と2025年1月に政策金利をそれぞれ0.25%引き上げ、現在政策金利は0.5%に至っています。
つまり、2022年以降米国とEUは政策金利を急速に引き上げ、2024年に入ると政策金利の引き下げに転じたわけですが、米国とEUが政策金利の引き下げに転じたころになって、ようやく日本は重い腰を上げるかの如く政策金利の引き上げを開始しました。しかも日本の政策金利の引き上げ幅は小さく、引き上げの速度も非常に緩慢です。
プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明
*アイキャッチ UnsplashのAgatheが撮影した写真
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