2025.04.24
【コラム】(プロファイバンカーの視座)第168回 プロジェクトファイナンス超入門(32)
2025.03.27 連載コラム
【主要国の金利水準】
これまで金利に関わるお話をしてきました。プロジェクトファイナンスは事業向け融資です。プロジェクトファイナンスを利用する側から見ると、融資というのは借入のことです。融資あるいは借入には借入金利があります。借入金利の水準は経済環境に応じて上下動します。銀行からの借入金は通常変動金利ですから、借入金の金利水準は常に上下動します。
企業が資金を借入する方法には銀行からの借入以外に社債を発行して借入する方法があります。社債の借入金利は通常固定金利です。社債を発行した時点で借入金の金利水準(これをクーポンとも言います)が決まり、最終返済期日までその借入金利の水準は変わりません。
プロジェクトファイナンスのほとんどは銀行からの借入の形を取っています。社債による借入を行うことは極めて稀です。その理由は、社債による借入は(1)借入金の代り金が一度に借主に入ってきてしまい、いわゆるネガティブキャリー(注1)が発生してしまう、(2) プロジェクトファイナンスでの借入金の返済は長期に亘る約定弁済が普通なので、社債ではこれが容易ではない、からです。
プロジェクトファイナンスのほとんどが銀行からの借入の形を取っているのに加え、借入金の通貨に注目して見ると、プロジェクトファイナンスは米国ドルを使用しているものが非常に多いです。特に新興国で行われているプロジェクトファイナンスの融資(借入)の通貨は圧倒的に米国ドルが多いです。そういう実情があるので、これまで本コラムでも主に米国ドルの金利のお話をしてきました。
米国内のプロジェクトファイナンスはもちろん米国ドルでの融資(借入)になります。しかし、他の先進国で行われるプロジェクトファイナンスの融資(借入)はどうでしょうか。他の先進国で行われるプロジェクトファイナンスの融資(借入)はその国の通貨を使用することが多いです。例えばEU諸国で行われるプロジェクトファイナンスの融資(借入)はユーロ建て、英国で行われるプロジェクトファイナンスの融資(借入)はポンド建て、オーストラリアで行われるプロジェクトファイナンスの融資(借入)はオーストラリアドル建て、カナダで行われるプロジェクトファイナンスの融資(借入)はカナダドル建て、そして日本国内で行われるプロジェクトファイナンスの融資(借入)は円建て、といった具合です。
そして、こういったそれぞれの先進国の通貨の金利水準は同じではありません。つまり、金利水準というのは通貨ごとに異なります。そうしますと、それぞれの国の通貨でプロジェクトファイナンスの融資(借入)を利用した場合に、借入金の金利水準はそれぞれ異なるということです。以下に、現時点の主要国の政策金利水準をお示しします。政策金利の水準は概ね借入金利の水準のベースとなっています。
【主要国の政策金利】(注2)
それぞれの主要国の通貨の金利水準は異なるということを改めて確認しておきたいと思います。このことはどんなことを示唆するでしょうか。事業を行う、ビジネスを行うという観点で見ると、このことは見逃せない重要なポイントになります。なぜなら、プロジェクトファイナンスの話を持ち出すまでもなく、事業・ビジネスを行うには通常資金調達(つまり借入)が必要であることが多いからです。仮に利益が一定の水準を期待できる事業・ビジネスであったとしても、借入をして資金調達を行うのであれば、これに伴う借入コストを勘案しておかないといけません。借入コストが高ければ、その分利益は減少余儀なくされます。借入コストが低ければ、利益の減少幅は抑えられます。通貨によって借入金の金利水準が違うということは、通貨によって借入コストが違ってくる、ということです。そうすると、事業の収益にも影響を与えるということになります。
注1)
ネガティブキャリー(Negative Carry)とは、一般に事業や資産の利回りよりも資金調達コストのほうが高くなり損失が発生することを指します。プロジェクトファイナンスの文脈で社債を発行した場合のネガティブキャリーとは、借入金の代わり金がしばらく使用されず預金口座に滞留することにより、預金金利よりも借入金金利が高いために損失が発生することを指しています。
注2)
本グラフは2025年3月20日時点の各国の政策金利を表示しました。EUは3月6日に政策金利を2.75%から0.25%引き下げ2.50%にしました。カナダは3月12日に政策金利を3.00%から0.25%引き下げ2.75%にしました。現在米国の政策金利は4.25%~4.50%と幅を持たせていますが、上記グラフでは上限の4.50%を使用しました。
プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明
*アイキャッチ UnsplashのAndy Heが撮影した写真
【バックナンバー】
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