2024.12.04
【コラム】(プロファイバンカーの視座)第160回 プロジェクトファイナンス超入門(24)
2024.11.28 連載コラム
【総資産利益率や自己資本比率が低下すると、なぜまずいのか】
さて、融資残高が大きくなり、バランスシートが大きくなると、総資産利益率や自己資本比率が低下するという点を前回平常時のマイナス面として指摘しました。おそらく、読者の中には「総資産利益率や自己資本比率が低下すると、どうしてまずいのだろう?」とさらに疑問に思った方もいらっしゃると思います。この点をもう少し見てゆきたいと思います。
【自己資本比率と株価純資産倍率】(注1)
上記の表は横軸に自己資本比率(%)、縦軸に株価純資産倍率(PBR)を取り、日本と米国の主要銀行をマッピングしたものです。日本のメガバンク3行(MUFG、SMFG、みずほ)が青色のマルです。米国の大手3銀行(JPモルガン・チェース、バンク・オブ・アメリカ、ウェルズ・ファーゴ)が赤色のマルです。表中の数字(0.80~1.86)はそれぞれの株価純資産倍率です。
株価純資産倍率は株価を1株あたり純資産額で割ったものです。株価純資産倍率が1.0のとき、株価は1株あたり純資産額と一致していることになります。株価純資産倍率が1.0を上回ると、当該企業の株式市場での評価は高いということになります。株価純資産倍率が1.0を下回ると、当該企業の株式市場での評価は低いということになり、当該企業の解散価値の方が時価総額より高いということになります。
上記の表を見てゆきますと、米国の大手3銀行(赤色のマル)はいずれも右上にありますね。自己資本比率は8.1%~9.5%に及び、株価純資産倍率は1.09~1.86です。つまり、自己資本比率の高い銀行は株価純資産倍率も高い傾向が見て取れます。言い替えると、自己資本比率が高いと株式市場での評価も高い、ということです。
一方、上記の表で日本のメガバンク3行を見てゆきますと、残念ながら左下にあります。自己資本比率は3.5%~5.0%で、株価純資産倍率は0.80~0.97です。株価純資産倍率は1.0を下回っています。自己資本比率が高くないので、株価純資産倍率も高くありません。言い替えると、自己資本比率が高くないので株式市場での評価も低い、ということです。
前回と今回の内容をまとめてみたいと思います。
なぜ銀行はバランスシートを大きくするとまずいのか。それは金融危機時に不良債権が増え、破綻の危険が高まるからであり、平常時でも総資産利益率や自己資本比率が低下するからである。自己資本比率の高い銀行は株価純資産倍率も1.0を上回り、株式市場での評価が高い。一方、自己資本比率が低い銀行は株価純資産倍率も1.0を下回り、株式市場での評価が低い。
(注1)
2024年6月30日時点のデータに基づき筆者が作成。具体的な数値は次の通りです。
(注2)
本稿では自己資本比率は貸借対照表上の総資産額を使用して算出しています。ご周知の通り、バーゼル規制では日本のメガバンクは自己資本比率8%以上を維持する必要があります。バーゼル規制での自己資本比率の計算方法はリスク資産の考え方が採り入れられており、リスク資産額は通常貸借対照表上の総資産額より小さいです。この方法で計算すると日本のメガバンクの自己資本比率は優に8%を超えています。
プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明
*アイキャッチ UnsplashのTim Gouwが撮影した写真
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