【コラム】(プロファイバンカーの視座)第165回 プロジェクトファイナンス超入門(29)

2025.02.13 連載コラム

ナレッジパートナー:井上 義明


【借入金利が上昇するとプロジェクトファイナンス市場に影響】

前回は「なぜ2022年・2023年に米国の政策金利は引き上げられたのか」という点を見てきました。その理由は米国国内の物価が上昇していたからです。物価上昇(インフレーション)を抑えるために、FRBは政策金利を引き上げたわけです(注)。その効果があって、物価上昇(インフレーション)は2023年中ごろ以降落ち着いてきました。そしてFRBは2024年9月から徐々に政策金利の引き下げを開始しています。

さて、今回は米国の政策金利が上昇したことによって市場の金利も上昇し、プロジェクトファイナンスの市場に影響を与えたメカニズムについて見てゆきたいと思います。

繰り返しになりますが、米国の政策金利の引き上げは2022年3月から2023年7月までの間に11回、累計5.25%の引き上げが行われました。2022年3月以前はほぼゼロだった政策金利が5%以上も引き上げられました。政策金利の上昇は当然市場金利の上昇を引き起こします。資金を借りる際の借入金利が上昇し、銀行にお金を預けた際の預金金利も上昇します。中央銀行による政策金利の引き上げは市場のあらゆる金利を引き上げます。

市場の金利が上昇すると、なぜプロジェクトファイナンスの市場を縮小させるのか。この点を具体的に確認しておきましょう。ここでいう「プロジェクトファイナンス市場の縮小」という意味ですが、これは「1年間に締結されたプロジェクトファイナンスの融資契約書の融資金額の合計額が減少する」という意味です。プロジェクトファイナンスの市場規模は締結された融資契約書の融資金額の合計額で示しています。そうすると、このパラグラフの冒頭の問いかけ「市場の金利が上昇すると、なぜプロジェクトファイナンスの市場を縮小させるのか」は、「市場の金利が上昇すると、なぜプロジェクトファイナンスの融資契約書の締結が減少するのか」と読み替えても構いません。

みなさん、いかがでしょうか。この問いかけはそんなに難しくはないですよね。その問いかけに対する答えは借入金利が上昇しているからです。借入金利が上昇してきたから、お金を借りるのをやめておこうと考える人が増えるからです。プロジェクトファイナンスの形で借入金を利用する事業主の立場で考えてみましょう。借入金利が上昇してくると、借入金に伴う利息の支払額が増えてきます。借入利息の支払額が増えてくると、事業主が事業から得られる配当金がその分減ってしまいます。つまり、事業主が事業から得られる配当金が減るということは、事業の利回りが低下するということです。元々非常に高い事業利回りを確保している事業なら多少減少しても問題ないかもしれませんが、事業利回りが月並みな水準ですと借入金利の上昇によって事業利回りの水準が低下し、ことと次第では事業の実施を延期したり、場合によっては事業を断念せざるを得ない場合も出てきます。すなわち、借入金利の上昇によって、プロジェクトファイナンスの対象となっていた事業が延期されたり、最悪断念されたりする例が増えるわけです。

借入金利が上昇したら、借入をするのはやめておこう、という判断は合理的な判断です。個人のレベルで考えても分かります。例えば、住宅ローンを借りて家の購入を考えていたところ、借入金利が5%も上昇してしまったら、さすがに誰でも躊躇をします。借入金利の下がるのを待とうか、と借入を行うタイミングを先延ばしにしてもおかしくありません。

つまり、政策金利の上昇によって市場金利(借入金利)が上昇したので、プロジェクトファイナンス市場でも事業の延期やキャンセルが発生し、その結果プロジェクトファイナンスの融資契約書の締結もスローダウンしたということです。(次回に続く)

(注)
現在の中央銀行(米国のFRBや日本の日本銀行)の重要な役割として「物価の安定」があります。物価上昇(インフレーション)に対しては政策金利の引き上げ、物価下落(デフレーション)に対しては政策金利の引き下げが中央銀行の行う伝統的な金融政策です。日本銀行法にも「日本銀行は…物価の安定を図る」(同法第2条)と明記されています。

プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明

*アイキャッチ  UnsplashDuong Thinhが撮影した写真

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