2026.01.22
【コラム】(プロファイバンカーの視座)第179回 プロジェクトファイナンス超入門(43)
2025.09.11 連載コラム
【借入金の通貨の選び方8~為替の問題】
前回は事業会社の支出について見てきました。事業会社の支出は主に「操業費支払」「借入金返済」「配当金支払」の3つに整理できます。それぞれの金額的な大きさはどうなのか、それぞれの支払順序はどうなのか、というお話もしました。後者の支払順序については「キャッシュ・ウォーターフォール」という用語をご紹介しました。「キャッシュ・ウォーターフォール」は、プロジェクトファイナンスにおいてレンダーが借主の資金を管理する仕組みの1つです。この用語はぜひ覚えておいてください。
[為替変動リスクがあるとは]
さて、事業会社の支出について整理したところで、次の点を考えてみましょう。それは、事業会社が「為替変動リスク」に晒されるとは、どういう状態を指すのか。事業会社に「為替変動リスク」がある、とはどういう状態にあることを指すのか。
事業会社が「為替変動リスク」に晒される、あるいは事業会社に「為替変動リスク」があるというのは、実務的にかつ現場目線で分かりやすい表現で言い替えると、この事業会社は事業を遂行してゆくうえで定期的に銀行で外貨の両替(他通貨との交換)をする必要があるのかどうか、ということです。事業を遂行してゆくうえで定期的に銀行で外貨の両替をする必要が(ほとんど)ないのであれば、その事業会社は「為替変動リスク」に晒されていません。つまり「為替変動リスク」はありません。他方、事業を遂行してゆくうえで定期的に銀行で外貨の両替をする必要があるのであれば、その事業会社は「為替変動リスク」に晒されています。つまり「為替変動リスク」があります。しかも、その外貨両替する金額の規模が大きければ大きいほど、「為替変動リスク」も大きくなると言えます。
[ケーススタディの豪州風力発電事業]
ここで第175回のコラムでご紹介したケーススタディに戻りたいと思います。
このケーススタディは豪州での風力発電事業でした。このケーススタディでは、プロジェクトファイナンスで借入をするとしたら、借入金の通貨はどの通貨を選べば良いかと問いかけました。そして、間違えやすい解答例を2つご紹介しました。みなさんの中にも、もしやこの間違えやすい2つの解答例のいずれかが正しいのではないかと一瞬思った方がいらっしゃるのではないでしょうか。なぜ、この2つの解答例ではまずいのか。その理由を順を追って解き明かしてゆきたいと思います。
借入金の通貨を選ぶに当たって、どういう点に留意すれば良いのか。そのポイントは、借主となる事業会社が「為替変動リスク」に晒されないように、つまり「為替変動リスク」を負わないようにすることです。第175回コラムのケーススタディでは融資の返済期間は18年です。プロジェクトファイナンスでは融資の返済期間は長くなりがちです。従って、借入金の通貨をうっかり誤って選ぶと、18年の長きにわたって「為替変動リスク」に晒され続けることにもなりかねません。また、期間が長くなればなるほど、為替の変動幅も大きくなる可能性もあります。つまり、返済期間が長いということは、潜在的な為替変動リスクも大きいわけです(注)。
さきほど事業会社に「為替変動リスク」があるかどうかは、具体的には事業を遂行してゆくうえで定期的に銀行で外貨の両替をする必要があるかどうかだ、というご説明をしました。この「事業を遂行してゆくうえで定期的に銀行で外貨の両替をする必要があるかどうか」というのは、どうやって分かるのでしょうか。先に結論を申し上げると、これは事業収入の通貨と事業支出の通貨が一致しているかどうかで決まります。もう少し具体的にお話します。例えば事業会社の収入の通貨がすべて豪ドルだったとします(ケーススタディの豪州風力発電事業の場合がそうですね)。そして、この事業会社の支出もすべて豪ドルで行われるとします。事業会社の収入の通貨がすべて豪ドルで支出もすべて豪ドルなら、この事業会社は事業を遂行してゆくうえで銀行で外貨の両替をする必要など全くありませんよね。いかがでしょうか。この事業会社にとって、為替相場の変動、例えば豪ドルと米ドルの為替相場の変動とか豪ドルと日本円の為替相場の変動などは、この事業会社の収益になんの影響も与えないはずです。ということは、この事業会社は「為替変動リスク」に晒されていない、つまり「為替変動リスク」を負っていない、ということです。
敢えてもう一度問いかけます。どうして、為替相場の変動がこの事業会社の収益に影響を与えないのでしょうか。それは事業収入の通貨と事業支出の通貨が一致しているからです。
(次回に続く)
注)
例えば、返済期間が非常に短いケースを想像してみましょう。融資の返済日が1年以内に到来するとしてみましょう。そうすると、借入をした時点で為替先物予約を用いて為替水準を固定することができます。為替水準を固定することができれば、もはや為替変動リスクはなくなります。ケーススタディのように返済期間が長期になる場合には、為替先物予約のような手段が使えません。為替スワップという手法ならもっと長期にわたって対応することもできますが、あいにく為替スワップの手数料は非常に高く、プロジェクトファイナンスの世界では(ほとんど)使用されていません。
プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明
*アイキャッチ UnsplashのDavid Yaoが撮影した写真
【オススメ!】
・【オンラインLIVEセミナー】『 プロジェクトファイナンス入門セミナー 』の開催 (2025年10月23日、27日、30日)
【バックナンバー】
・【コラム】(プロファイバンカーの視座)第178回 プロジェクトファイナンス超入門(42)
・【コラム】(プロファイバンカーの視座)第177回 プロジェクトファイナンス超入門(41)
・【コラム】(プロファイバンカーの視座)第176回 プロジェクトファイナンス超入門(40)
・【コラム】(プロファイバンカーの視座)第175回 プロジェクトファイナンス超入門(39)
・【コラム】(プロファイバンカーの視座)第174回 プロジェクトファイナンス超入門(38)
・【コラム】(プロファイバンカーの視座)第173回 プロジェクトファイナンス超入門(37)
・【コラム】(プロファイバンカーの視座)第172回 プロジェクトファイナンス超入門(36)
・【コラム】(プロファイバンカーの視座)第171回 プロジェクトファイナンス超入門(35)
・【コラム】(プロファイバンカーの視座)第170回 プロジェクトファイナンス超入門(34)
・【コラム】(プロファイバンカーの視座)第169回 プロジェクトファイナンス超入門(33)
・【コラム】(プロファイバンカーの視座)第168回 プロジェクトファイナンス超入門(32)














