2025.11.15
【コラム】(プロファイバンカーの視座)第176回 プロジェクトファイナンス超入門(40)
2025.07.24 連載コラム
【借入金の通貨の選び方5~為替の問題】
前回豪州での陸上風力発電事業のケーススタディをご紹介しました。そこでみなさんに「このケーススタディの事例でプロジェクトファイナンスの手法で借入をする際に、借入金の通貨はどの通貨を選べば良いでしょうか」と問いかけました。この問いかけの背景には、借主となる事業会社の為替対策には借入金の通貨選びが鍵を握っているという事情があります。
このケーススタディについての解答としてよく出てくる例(しかし、あいにく間違っている解答例)をまずご紹介します。
日本円で借入をする。理由は日本円の借入金利の水準が最も低いから。
本コラムでも過去に「海外での事業投資のための借入金は、例えば今借入金利水準の低い日本円で行ったら有利なのではないか?」という問い掛けをしたことがありますね。借入金利の水準だけに注目して、借入金利の水準が低い通貨の方を選ぶというのは直観的で分かりやすいです。しかし、前回のコラムで指摘した『海外事業の収益に与える影響度合いについては、「金利」の変動よりも「為替」の変動の方が遥かに大きい』という点を思い出してください。この指摘を少し言い替えると、「金利の問題よりも為替の問題の方が大事だ」ということです。ここでいう為替の問題というのは、「借入をする際に正しい通貨で借入をする」という問題のことです。借入金の通貨についてはまず正しい通貨を選ぶ。その後に、金利の問題を考えるというのが正しい順序です(もちろん正しい通貨での借入を選んだ後は、借入金利は低ければ低い方がいい)。借入金の通貨の選択を後回しにして、金利のことを先に考える(金利は低い方がいい)というのは順序が間違っています。これは大変な間違いです。優先順位を間違えてはいけません。その理由はもうお分かりですよね。繰り返しになりますが、重要なのでもう一度申し上げます。『海外事業の収益に与える影響度合いについては、「金利」の変動よりも「為替」の変動の方が遥かに大きい』からです。
ユーロで100%借入をする。可能であればユーロで70%、豪州ドルで20%、米ドルで10%借入する。理由はEPC(建設)契約の代金支払いの通貨に合わせるため。
EPC(建設)契約の代金支払いの通貨に合わせて借入の通貨を選ぶのがこの解答例の考え方です。こういう考え方をする方も一定数おられます。従って、この考え方での最善策はユーロで70%、豪州ドルで20%、米ドルで10%借入をすることです。3通貨に分かれるのが煩雑だということであれば、代金支払いのうち最も割合の大きいユーロ建てで1本化してユーロ建てで100%借入をするのがこの考え方での次善策です。
ここで正解をご紹介しておきます。正解は次の通りです。
豪州ドルで借入する。理由は事業会社の事業収入(電力販売収入)が豪ドル建てだから。
借入金の通貨は事業収入の通貨に合わせるのが正解です。こうすることによって、借主である事業会社は為替変動に伴うリスクを概ね回避することができます。
借入金の通貨の選び方を等式で表せば、次のようになります。
【借入金の通貨の選び方】

次回以降、なぜ解答例1と解答例2ではまずいのか、正解がどうして「借入金の通貨=事業収入の通貨」なのか、といった点をご納得していただけるよう分かりやすくご説明してゆきたいと思います。
(次回に続く)
プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明
*アイキャッチ UnsplashのJeremy Lamが撮影した写真
【バックナンバー】
・【コラム】(プロファイバンカーの視座)第175回 プロジェクトファイナンス超入門(39)
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