【コラム】(プロファイバンカーの視座)第173回 プロジェクトファイナンス超入門(37)

2025.06.12 連載コラム

ナレッジパートナー:井上 義明


【借入金の通貨の選び方2~為替の問題】

前回「金利」の話から「為替」の話へ話題を移してきました。念頭にあるのは、前々回のコラムの最後の問いです。「海外での事業投資のための借入金は、例えば今借入金利水準の低い日本円で行ったら有利なのではないか?」という問いです。この問いには「為替」の問題が潜んでいるので、「為替」の話に話題を移してきたわけです。

「金利」も「為替」もどちらも海外の事業の収益に少なからず影響を与える、と前回指摘しました。さらに踏み込んで、「金利」と「為替」とでは一般的にどちらの方が変動幅は大きいのかという点を実証的に確認しておきたいと思います。変動幅が大きい方が、その分事業の収益に与える影響度合いも大きくなるからです。ビジネス会話的に言えば、「金利と為替ではどちらの方が怖いのか、より注意をしなければいけないのか」と言い替えても良いかと思います。まず、下記の2つのグラフをご覧ください。

【2000年以降の米国の政策金利】(注1)

上記のグラフは、2000年以降の米国の政策金利の動向をグラフにしたものです。注目していただきたいのは変動幅です。直近の2024年に5%を超えました。過去を振り返って見ると、2006年2007年にも5%を超えたことがあります。さらに2000年初頭(グラフの左端)では6%を超えていたことが分かります。一方で、政策金利の低いところも見てみましょう。2009年から2016年初めまで0%近くになっています。2020年から2022年の間も0%近くにあるのが分かります。つまり、2000年以降の米国の政策金利の水準は0%から6%の間を上下していたことになります。この約四半世紀の間の米国の政策金利の変動幅はざっと6%と理解しておいてよろしいと思います。

余談ですが、政策金利は通常景気が過熱すると(物価が上昇すると)引き上げ、景気が冷えると(物価が下落すると)引き下げます。上記のグラフをよく観ると、2001年頃、2008年頃、2020年頃の3カ所に縦で灰色の線が記載されていますね。この3か所はいずれも政策金利を引き下げた時期を示しています。政策金利を引き下げたということは、その直前に景気を冷やすような悪い事態が発生したということが想像できます。2001年、2008年、2020年のそれぞれで景気を冷やすような悪い事態とは、いったいどういう事態だったのでしょうか。みなさん、ご記憶にありますでしょうか。答えを申し上げると、2001年は米国のドットコムバブルの終焉です。2008年は言わずと知れたリーマンショックです。そして2020年は記憶に新しいですね、コロナウイルスの感染拡大です。

【2000年以降の米ドル・円の為替相場】(注2)

上記のグラフは、2000年以降の米ドル・円の為替相場の動向をグラフにしたものです。注目していただきたいのはここでも変動幅です。この期間で最も円高だったのは2011年2012年ごろの80円台です。もっとも円安なのは2024年以降の150円台です。変動幅ということになりますと、80円台から150円台ですから、おおよそ2倍ということになります。このときに変動幅は70円程度と捉えることはしません。なぜなら、海外事業の収益への影響度合いを知りたいからです。海外事業の収益への影響度合いを念頭に置くと、80円台から150円台への円安は円建てでの事業収益がほぼ倍増する、と捉えます。逆に、仮に今後150円から120円まで円高が進んだとします。そうすると、円建てでの事業収益は約20%(30円/150円)失う、と捉えていきます。(次回に続く)

注1)
出典はFederal Reserve Economic Data. https://fred.stlouisfed.org/

注2)
出典はマクロトレンド。同サイトでデータを入手し、筆者がグラフを作成。米ドル・円の相場の値は1年毎の平均値を使用しています。https://macrotrends.net/2550/dollar-yen-exchange-rate-historical-chart

プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明

*アイキャッチ Unsplashfan yangが撮影した写真

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