2025.07.16
【コラム】(プロファイバンカーの視座)第172回 プロジェクトファイナンス超入門(36)
2025.05.22 連載コラム
【借入金の通貨の選び方1~為替の問題】
前回は主要国の通貨で借入をした場合、借入金利の水準がどの程度になるのかというシミュレーションを試みてみました。ローンマージンを一律1.50%(150bp)と仮定してみると(注)、英国ポンドや米国ドルで年利率6.00%、オーストラリアドルで5.60%、カナダドルで4.25%、ユーロで4.00%、日本円で2.00%といった結果になりました。借入金利の水準は当然事業利回りに影響を与えます。事業利回りをできるだけ引き上げたいと考えると、借入金利の水準もできるだけ低い方が良いということになります。
前回のコラムの最後ではこういうコメントを引用しました。「海外での事業投資のための借入金は、例えば今借入金利水準の低い日本円で行ったら有利なのではないか?」
みなさんはいかがですか。借入金利の水準の低い日本円で借入をして、その借入金のお金を海外での事業投資に投じる、というのは良い考えだと思いますか。
これまで「金利」の話を随分してきました。借入をして事業を行う事業主の立場であれば、借入金の金利水準は低い方が良い、というのは明らかです。借入金の金利水準が低ければ、その分事業利回りを高くすることができます。「金利」だけを見ていると、間違いなくそういう結論になります。しかし、海外事業に携わっておられる方々には、金融において見逃せないもう一つの重要なポイントにも目を向けていただきたいと思います。
それは「為替」の問題です。厳密には「外国為替」ですね。でも、以下では簡潔に「為替」だけ記すことにします。「為替(外国為替)」とはそもそも異なる国の通貨を交換するという意味です。そして、このときの交換比率を「為替相場」と言います。ビジネスの現場で「今日は円が上がって、1ドル140円になりましたね」といった会話を耳にしますが、これは米国ドルと日本円の為替相場の話をしているわけです。
海外事業に携わっておられる方々にとって、「為替」の問題が金融におけるもう一つの重要なポイントだと私が指摘する理由は、お分かりでしょうか。多くの方はだいたい察せられるかと思います。そうです。海外事業に携わっていると、「為替」の動向次第で事業の収益が左右されるからです。これまでお話してきたように「金利」の動向も事業の収益を左右しますが、「為替」の動向も事業の収益を左右します。
まず、ここで「金利」と「為替」という2つの金融の要因を少し考えてみましょう。両者の共通点は、どちらも海外の事業の収益に少なからず影響を与える点です。借入金の「金利」が上がれば事業利回りを下げる、借入金の「金利」が下がれば事業利回りを上げる、という話はこれまで随分してきました。「為替」はどうでしょうか。日本企業の立場で見ると、円高になれば円建てでの収益が下がり、円安になれば円建てでの収益が上がる、ということですね。「金利」と「為替」を考えるうえでまず注目しておきたいのは、「金利」と「為替」は一般的にどちらの方が変動幅が大きいかという視点です。変動幅が大きいと、その分事業の収益に与える影響度合いも大きくなるからです。「海外での事業投資のための借入金は、例えば今借入金利水準の低い日本円で行ったら有利なのではないか?」というコメントをきっかけに、今回から数回にわたり、「為替」の問題を採り上げてゆきます。(次回に続く)
注)
ローンマージンは企業向け融資なら企業の信用力(信用格付)、プロジェクトファイナンスなら事業の信用力(事業の借入金返済能力)によって決まる、と前々回(第170回)申し上げました。この理論通りであれば、国が異なっても通貨が異なっても、ローンマージンは一律のはずです。しかし、実際には市場毎(通貨毎)の資金の需給関係でローンマージンの水準は随分変わってきます。例えば、日本円で融資を行っている日本国内のプロジェクトファイナンス案件のローンマージンを観てみると、驚くほど低いです。日本国内の太陽光発電向けプロジェクトファイナンスのローンマージンはせいぜい0.25%(25bp)~0.50%(50bp)といったところです。海外の太陽光発電向けプロジェクトファイナンスだったら、この2倍から3倍あるいはそれ以上のローンマージンが普通です。日本国内のプロジェクトファイナンス案件のローンマージンが非常に低いのは、日本円の資金需給が緩和している(つまり、ローンマージンが低くても資金の出し手が沢山いる)ためだと考えられます。
ちなみにプロジェクトファイナンスに積極的に取り組んでいる複数の外国の銀行が日本に拠点を持って業務を行っていますが、こういった外国の銀行は日本国内のプロジェクトファイナンスをほとんど行っていません。ローンマージンが低いからです。こういった外国の銀行が日本に拠点を持って業務を行っているのは、日本企業による海外のプロジェクトファイナンス案件を獲得するためです。
プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明
*アイキャッチ Unsplashのmeriç tunaが撮影した写真
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【バックナンバー】
・【コラム】(プロファイバンカーの視座)第171回 プロジェクトファイナンス超入門(35)
・【コラム】(プロファイバンカーの視座)第170回 プロジェクトファイナンス超入門(34)
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