2025.07.16
【コラム】(プロファイバンカーの視座)第174回 プロジェクトファイナンス超入門(38)
2025.06.26 連載コラム
【借入金の通貨の選び方3~為替の問題】
前回は2000年以降の米国の政策金利の動向と2000年以降の米ドル・円の為替相場の動向を実際に確認してみました。この四半世紀の間に、それぞれどれほど変動したのかを確認するためです。プロジェクトファイナンスの対象となる事業は、資源開発案件にしても発電案件にしても、事業期間が20年あるいはそれ以上に及びます。従って、金利や為替についても今後20年程度を視野に入れて考えておきたいわけです。
今後20年がどうなるのかを考える前提として、少なくとも過去20年がどうだったのかを知らずに今後20年のことを語るのは甚だナンセンスです。もちろん、過去20年のことを知りさえすれば今後20年のことが分かる、というわけでもありません。しかし、過去を知ることによって、なかなか見えない将来が少しでも見えるようになるのではないか、というわけです。従って、金利と為替の話題に限ったわけではありませんが、なにごとも過去に起こったことをよく知るというのは、ビジネスの上でも生活や人生全般の上でも、欠かせないことだろうと私は常々考えています。
さて、前回のコラムの要点をまとめておきます。金利については2000年以降の米国の政策金利の動向を観ました。為替については2000年以降の米ドル・円の為替の動向を観ました。あくまでひとつの材料として、それぞれ米国の政策金利と米ドル・円の為替を採り上げてみたものです。例えば、為替の問題であれば、米ドル以外の通貨はどうなのか、という興味も当然湧いてくると思います。みなさんが実際のビジネスで関わっている通貨について、過去の為替相場がどうだったのか、ぜひご自身で一度調べてみるのがよろしいかと思います。
【金利と為替の変動幅-まとめ】
前回のコラムの要点はおおよそこういうふうにまとめられると思います。
- 2000年以降の米国の政策金利の動向を観ると、金利の変動幅は0%から6%。直近では2022年から2023年にかけて急速に政策金利が引き上げられたが、現在は引き下げの局面にある。政策金利の引き下げ局面は2000年以降では4回目になる。
- 2000年以降の米ドル・円の為替相場の動向を観ると、変動幅は80円台から150円台でおおよそ2倍あるいは2分の1。2011年2012年に80円台をつけ、現在は2000年以降で最も円安の位置にある。
さらに、海外事業の収益に与える影響度合いについて、「金利」と「為替」ではどちらの方が大きいのか、という点を確認しておきましょう。借入金の金利水準が上下したときの事業収益に与える影響度合いについては、本コラムで簡易な計算式をご紹介しました(注)。そのときの要点は、借入金利の変動幅(例えば4%)に借入比率(総事業費のうち借入金の占める比率。例えば70%)を掛ければ、概算することができます(例えば4% x 70% =2.80%)。他方、為替が変動したときの事業収益に与える影響度合いはどうでしょうか。上記のまとめでお示しした通り、米ドル・円の為替相場の場合で言えば、事業収益が2倍になったり、逆に2分の1になったりすることがあり得るわけです。つまり、海外事業の収益に与える影響度合いについては、「金利」の変動よりも「為替」の変動の方が遥かに大きい、と結論付けることができます。(次回に続く)
プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明
*アイキャッチ UnsplashのSam Jotham Sutharsonが撮影した写真
【バックナンバー】
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