2026.01.22
【コラム】(プロファイバンカーの視座)第180回 プロジェクトファイナンス超入門(44)
2025.09.25 連載コラム
【借入金の通貨の選び方9~為替の問題】
前回は事業会社が「為替変動リスク」に晒される、あるいは事業会社に「為替変動リスク」がある、というのは具体的にどういうことかをご説明しました。実務的に分かりやすい表現で言い替えると、事業会社は事業を遂行してゆくうえで定期的に銀行で外貨の両替(他通貨との交換)をする必要があるのかどうかだとご説明しました。「定期的に」というのは月に数回とか、週に1回とか、そういった頻度を指しています。そして、ケーススタディの豪州風力発電事業の場合を観てゆき、この事業会社の収入の通貨がすべて豪ドルで支出もすべて豪ドルなら、この事業会社は事業を遂行してゆくうえで定期的に銀行で外貨の両替をする必要はないということを確認しました。つまり、この事業会社は「為替変動リスク」に晒されていない、この事業会社に「為替変動リスク」はない、ということです。そのときのポイントは、事業収入の通貨と事業支出の通貨が一致しているかどうかということです。
[ケーススタディの豪州風力発電事業の収入と支出の通貨]
それでは豪州の風力発電事業のケーススタディについて、事業収入の通貨と事業支出の通貨をそれぞれもう少し詳しく確認してみましょう。
まずこの風力発電事業の事業収入の通貨は何でしょうか。 そうです、豪州ドルですね。豪州で発電事業を行うなら、豪州国内で電力を販売します。豪州国内で電力を販売するなら、事業収入は当然豪州ドルになるでしょう(注1)。
この風力発電事業の事業支出の通貨はどうでしょうか。事業支出については、主なものは「操業費支払」「借入金返済」「配当金支払」の3つがある、とこれまでに確認してきました。ケーススタディの場合、それぞれについて通貨がどうなるかをもう少しよく確認してみましょう。3つのうち、まず「操業費支払」の通貨を見てみましょう。「操業費支払」の操業費というのは、O&Mの費用(人件費を含む)、修繕費、税金の支払いなど事業の操業を維持してゆくために必要な費用のことです。豪州での事業を行っているわけですから、これらの費用はほぼ間違いなく全額豪州ドルでの支払いになるはずですね。
次に「配当金支払」の通貨はどうでしょうか。ケーススタディの場合、事業主(出資者)は豪州企業と日本企業です。日本企業への配当金は日本円で支払いを行なわなければいけませんか。そんなことはないですよね。事業会社は配当金を支払うとき、配当金支払の通貨について事業主(出資者)の国籍などを斟酌する必要はありません。この事業会社は豪州で事業を行っています。事業収入はすべて豪州ドルで、利益も豪州ドルです。その利益の一部から配当金の支払いを行います。従って、配当金の支払いは当然豪州ドルで行います。このケーススタディの事業主(出資者)である日本企業も、配当金の受領が豪州ドルとなることは百も承知しているはずです。
さて最後に「借入金返済」の通貨はどうでしょうか。借入金の返済をする際にどの通貨で返済するのか。みなさんは考えてみたことがございますか。これは通常借入を行うときに決まります。どういうことかというと、借入というのは借入をしたときの通貨と同じ通貨で返済をするのが大前提だからです(注2)。従って、将来A通貨で返済したいなら、借入はA通貨で行います。将来B通貨で返済したいなら、借入はB通貨で行います。借入金返済の通貨は借入をするときに選択するわけです。では、ケーススタディの豪州風力発電事業の事業会社の場合、どの通貨で借入をすれば良いのでしょうか。言い替えれば、「為替変動リスク」を回避するためには、どの通貨で借入返済を行うのが最善でしょうか。もうみなさん、お分かりですね。豪州ドルで借入をするのが正解です。そうすれば、将来豪州ドルで返済することになり、事業収入のすべてが豪州ドルである当事業会社にとっては好都合です。第176回のコラムで、借入金の通貨の選び方について「借入金の通貨=事業収入の通貨」という等式をご紹介しております。今回この等式と同じことを、ケーススタディに沿って改めてご説明しています。
(次回に続く)
注1)
豪州で電力事業を行うなら、電力収入は豪ドルになる、と書きました。同様に、米国で電力事業を行うなら、電力収入は米国ドルになります。ユーロ圏で電力事業を行うなら、電力収入はユーロになります。イギリスで電力事業を行うなら、電力収入はポンドになります。
それではアジアなどの新興国で電力事業を行うと、電力収入はどんな通貨になるのでしょうか。プロジェクトファイナンスの融資が付いている電力事業に関する限り、電力収入は通常米国ドルになっています。これはアジアなどの新興国で行う電力事業では売電契約書(PPA)で電力代金を通常米国ドルで規定するからです。こうすることによって、事業会社は価値の不安定な新興国通貨を事業収入として受け取る必要がなくなりますし、さらに借入金の通貨を米国ドルとすることができます(事業収入の通貨と借入金の通貨の一致)。
なお、オフテイカー(通常新興国の国営電力会社)による実際の電力代金の支払いは現地通貨での支払を許容することが多いです(その旨売電契約で規定)。しかし、オフテイカーが電力代金を現地通貨で支払う場合は、その支払の都度直近の米国ドルの価値を反映する水準の現地通貨金額を条件としています(事業会社は受領した現地通貨建ての電力代金を遅滞なく米国ドルに交換することによって、初めから米国ドルで電力代金を受領した場合と同じ状態を作り出せます)。こうすることによって、事業会社は現地通貨と米国ドルとの為替変動リスクを回避しています。なお、事業会社が新興国のオフテイカーによる電力代金の支払いを現地通貨でも許容する理由は、新興国のオフテイカーがそれを強く望むからです(事業会社は、オフテイカーが初めから米国ドルで電力代金を支払ってくれれば、それが最善だと考えています)。
新興国通貨で電力代金を受け取っている場合で、仮に新興国の通貨が短期間に暴落した場合にはどうなるでしょうか。例えば新興国通貨で電力代金を受け取った直後に暴落したとすると、事業会社は損失を免れません。しかし、電力代金の支払いの頻度は通常1か月に1回です。翌月以降の電力代金は直近(暴落後)の為替水準を反映するという売電契約上の取り決めがありますから、翌月以降の電力代金は調整されて正常に戻るはずです(例えば新興国通貨が米国ドルに比して50%暴落して価値が半減したとすれば、翌月の新興国通貨での電力代金の支払額は新興国通貨建てで2倍になります)。
注2)
借入したときの通貨と異なる通貨で返済するということはあり得るのか。これは興味深い疑問ですね。理論的にはありそうですが、実務的には(まず)ありません。その理由は、借りたときのA通貨と返済するときのB通貨との為替相場が将来どうなるのか、借主にも貸主にも誰にも分からないからです。もっとも、返済期間が非常に短いケースであれば、借入をした時点で為替先物予約を用いて為替水準を固定するということはできます。この点は前回のコラムの(注)で触れました。
プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明
*アイキャッチ UnsplashのSalomé Guruliが撮影した写真
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