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【レポート】(全6回)輸出信用機関(ECA)とプロジェクトファイナンスー第3回

2017.07.13 ナレッジ ハブ

ナレッジパートナー:井上 義明


2-2-2 借主は政府系か民間か

 さて、輸出金融における借主は原則輸入者になるわけであるが、その機器の輸入者は新興国においては政府や政府系機関であることが珍しくない。例えば、火力発電所一式を購入するのは新興国の国営電力会社である場合がその例である。新興国では民間の大企業の存在はむしろ少なく、火力発電所の商談などは専ら政府や政府系機関であることの方が普通である。そうすると、輸出金融の借主となるのは、そうした新興国の政府や政府系機関となる。借主が政府や政府系機関となる輸出金融を通称ソブリン案件(ソブリンもの)という。これは借主の信用リスクが究極ソブリン(国家)になるからである。

 信用リスクが究極ソブリンになるとはいうものの、経済規模の小さい新興国の場合、民間の銀行では同ソブリンの信用リスクを取るのは難易度が高い。ましてや、輸出金融の場合、融資期間が10年を超えるものが多く、難易度はさらに上がる。一方で輸出信用機関は政府が設立・運営をしていることから、新興国のソブリン・リスクには寛容である。新興国経済への協力という側面もあろう。いずれにせよ、新興国政府の信用リスクを積極的に取る。これは正に民間銀行の補完の役割を担っている部分と言っていい。

 次に輸出金融において借主が民間企業になる場合を見てゆく。例えば、新興国向けではあるが機器の輸入者が同国の民間企業である場合がこの例である。さらに新興国で日本企業や欧米企業等によって合弁会社が設立され、同合弁会社が大型プラントの設計や建設を先進国在住の建設会社に発注する場合もこの例である。冒頭に触れたニソン石油精製プロジェクトはその好例である。現在では新興国といえども政府が債務を増やすのは慎重になっているので、輸出金融における借主は民間企業や合弁会社になるケースが増えている。そして、輸出金融においてプロジェクトファイナンスが利用される場合は、借主は合弁会社や特別目的会社の形をとった民間企業である。

2-2-3 融資か保険・保証か

 輸出金融の分類の議論の最後に、輸出金融のファイナンス方法を見てゆく。OECDガイドラインには輸出金融のファイナンス方法について規定がある。つまり、融資もしくは保険・保証である。これまで本稿ではあえて両者を区別せずに記述してきた。むしろ、輸出金融は融資であるかの如く記述をした箇所もある。これはその方が説明しやすく、読者も理解しやすいと考えたからである。

 輸出金融のファイナンス方法は融資もしくは保険・保証である。融資は輸出信用機関が自ら資金を出すことである。従って、ただ融資と言わず、あえて直接融資と言うこともある。民間の銀行が行っている融資とまったく同様である。保険・保証は輸出信用機関が借主のリスクを取り、資金は民間銀行が出すものである。因みに日本の各都道府県には信用保証協会が存在する。中小企業向けの融資を促進する目的で信用保証協会が保証を供与し、民間銀行が資金を提供する。輸出金融における保険・保証の仕組みは正に信用保証協会のそれとほぼ同一である。輸出金融の場合、これをクロスボーダーで行っているだけである。

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デロイト トーマツ|インフラ・PPPアドバイザリー(IPA)
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