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【レポート】(全6回)輸出信用機関(ECA)とプロジェクトファイナンスー第2回

2017.07.06 ナレッジ ハブ

ナレッジパートナー:井上 義明


2.輸出金融

 輸出金融とは自国で生産された機器やプラント等の輸出を支援するためのファイナンスである。通常は輸入国の機器等の購入者が借主となる。輸出金融の典型的な例は、先進国から新興国へ工業製品や機器、プラントなどが輸出される際に、輸入国の借主にファイナンスを供与することである。ファイナンスを供与する金融機関は民間でも構わないわけであるが、20世紀初頭から欧米先進国では政府が設立した金融機関が輸出金融を供与するようになった。1934年にはイギリス、フランス、イタリア、スペインの4ヵ国の輸出信用機関により、情報交換の場としてベルン・ユニオン(Berne Union)[*5]が設立されている。同じく1934年にはフランクリン・ルーズベルト大統領政権下の米国で輸出入銀行が設立されている。日本では国際協力銀行の前身日本輸出入銀行が戦後の1950年に設立されている。

[*5] 正式名をInternational Union of Credit & Investment Insurersという。設立会合がスイスのベルンで開催されたので通称ベルン・ユニオンと呼ばれるようになった。現在事務局はロンドンにある。日本は1970年に加盟し、現在は日本貿易保険がそのメンバーの地位を継承している。日本貿易保険のHP http://nexi.go.jp/international/berne_union/index.html を参照。

 なぜ政府系の金融機関が輸出金融を担うようになったのであろうか。いくつか理由が考えられる。

1)ひとつは自国の経済成長である。先進国の工業化が進み、自国で生産する工業製品や機器等はいずれ輸出に向かう。自国内の市場では需要が鈍化しあるいは飽和し、輸出によってさらなる成長を求める。輸出先は新興国や中進国であることが多く、潜在需要は間違いなく存在するものの当該製品を購入する資金がなかなか手当てできない。購入資金を手当てできさえすれば、製品の販売は実現する。そこで、政府設立の輸出信用機関が輸出金融を供与し、自国の輸出を支援する。これは自国産業の成長を促すものである。つまり、政府主導の輸出金融は自国産業の成長を支援する政策の一環である。因みにベルン・ユニオンが設立された1934年は、1929年米国で発生した株価大暴落を受け世界的な不況に突入している時期である。欧州各国の不況克服の一環として輸出振興を図っていた時期であろうと推測される。政府主導の輸出金融の支援は経済政策の一部であるとも言える。

2)もうひとつはリスク面の問題である。輸出金融の重要性は分かったとして、輸出金融が民間金融機関によってではなく、政府系金融機関によって専ら担われているのはどうしてであろうか。それはおそらく融資先が新興国や中進国であるために、特に融資期間が長期に及ぶ場合には民間金融機関ではリスクが取れないからであろう。資金手当てに苦心している企業や事業は通常信用リスクの点で問題なしとしない。金融機関が資金提供したがらないから、資金手当てに苦心しているわけである。そういう企業や事業に対して融資を行うのは民間金融機関には難易度が高い。つまり、民間金融機関の市場に任せておいては十分な輸出金融は期待できない。輸出金融は「市場の失敗」になり得る分野と言えるかもしれない。そうすると、政府が一定の役割を担う理由がある。

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デロイト トーマツ|インフラ・PPPアドバイザリー(IPA)
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