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【レポート】(全6回)輸出信用機関(ECA)とプロジェクトファイナンスー第2回

2017.07.06 ナレッジ ハブ

ナレッジパートナー:井上 義明


2-1-1 目的、法的性格、参加国

 OECDガイドラインにはその目的が冒頭 (第1条) に明記されている。目的は「公的支援による輸出金融の競争ではなく、輸出者の財・サービスの品質と価格による競争を促すこと」と定める。非常に明快である。そして、この明快さは過去の教訓に基づくものであることは想像に難くない。つまり、各国政府は、自国の輸出者が受注できるように有利な輸出金融を供与し競争していたことが過去にはあったということであろう。自国産業の振興は政府の役割ではあるものの、輸出振興となると他国との競争延いては軋轢に発展しかねない。ましてや政府機関が輸出金融を供与して輸出振興を図ると、輸出金融の条件競争になってしまうということであろう。これを避けようとするのがOECDガイドラインの眼目である。

 さらにOECDガイドラインという文書の法的性格についても、同文書で規定している(第2条)。同文書の法的性格はGentlemen`s Agreement(紳士協定)である。Gentlemen`s Agreementとはどういうことか。これは違反者が現れても、司法機関等の力を以って強制的に遵守させることができないということである。同文書に署名した者が自主的に遵守することを期待するものである。強制的に遵守させることもできなければ、ましてや違反者に対する罰則もない。そういう意味では、法的な文書とは言うものの、強制力も罰則もない文書ということになる。しかしながら、多数の国が参加する協定書の類には実はこういう性格の文書は珍しくない。現在の国際社会では各国が絶対不可侵の主権を持っている。こういう国際社会の構造からすると、一国が強制力や罰則を持った文書に同意するのは容易なことではない。強制力や罰則自体を予め受け入れるという承認手続きが前提になる。従って、そういう状況ではややともすると国家間で物事が前に進まなくなってしまう。強制力も罰則もない文書は承知の上で、履行についてはお互いに相手を信頼するという前提で進めるのが現行の国際社会の現実的な知恵である。因みに、昨年(2016年)190か国以上が参加した温暖化対策に関する「パリ協定」[*8]も強制力も罰則もない。

[*8] 米国のトランプ大統領は今年(2017年)6月初め「パリ協定」からの脱退を発表した。

 さて、OECDガイドラインの参加国であるが、現在のところ参加国は次の通りである(第3条)。オーストラリア、カナダ、EU(欧州連合)、日本、韓国、ニュージーランド、ノルウェー、スイス、米国。EUはEUとして参加しているので、EU加盟国はすべて自動的にOECDガイドラインの参加国である。英国がEU離脱を完了した暁には、おそらく英国の名で再びOECDガイドラインに参加するものと予想される。英国はEU離脱後膨大な数の協定や条約に加盟し直すことになるはずである。本OECDガイドラインへの再参加はその一端に過ぎない。なお、欧州所在の国でノルウェーとスイスの名が参加国として見えるが、両国はEU加盟国ではないので自国名で参加している。また、中国はOECD加盟国ではないが、OECDパートナーとして近年OECDの活動全般に参加している。しかし、本OECDガイドラインには参加していない。もっとも、中国の輸出信用機関(Sinosure/ChinaExim)は自国の輸出振興のため、現在非常に活発に輸出金融を供与している。

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デロイト トーマツ|インフラ・PPPアドバイザリー(IPA)
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