• Home
  • ナレッジ ハブ
  • 【レポート】(全6回)輸出信用機関(ECA)とプロジェクトファイナンスー第3回

【レポート】(全6回)輸出信用機関(ECA)とプロジェクトファイナンスー第3回

2017.07.13 ナレッジ ハブ

ナレッジパートナー:井上 義明


さて、融資と保険・保証にはどんな違いが見られるのであろう。大きな違いを2点指摘しておきたい。

)1点目は民間銀行との競合の観点である。融資は民間銀行の中核的な業務である。預金を通じて資金を集め、融資を通じて運用する。政府系の輸出信用機関が融資を行うことによって、この民間銀行の中核的な業務と競合する可能性がある。日本の高度経済成長時代のように資金需要が旺盛で資金供給が不足しているときには民間銀行と競合するということはなかろう。むしろ不足している資金供給を補完する役割が期待される。しかし、金融が正常に機能しており資金供給能力が資金需要を上回る環境では、政府系の輸出信用機関による融資は民間銀行と競合する可能性が高まる。それに対して、保険・保証という手法は常に民間銀行と協働する手法である。なぜなら、輸出信用機関は保険・保証を供与し、それに基づいて民間銀行は融資をするからである。融資は、誰かが融資をすればその分の融資のニーズは消失し、その分だけ他の融資者を排除する。融資というのはそういう意味で排他性がある。ところが、保険・保証であれば融資者を排除することなく、保険・保証を供与する者と融資者とは常に協働できる。従って、保険・保証の供与であれば、民間銀行との競合は起こりにくい。因みに、日本の各都道府県にある信用保証協会は融資をしない。保証業務に特化している。信用保証協会が保証を供与し、民間銀行がそれに基づいて融資を行う。従って、信用保証協会は民間銀行と競合することはなく、むしろ民間銀行と常に協働をしている関係にある。

 政府系金融機関が融資を行うことがファイナンス・コストの上昇を抑制するという効果は認められる。特に大型の事業で一時に多額の資金調達を試みるときには、民間銀行だけからの資金調達だとファイナンス・コストが上昇しがちである。もっとも、ファイナンス・コストの抑制によって利益を得るのは借主である。上記に触れた民間銀行との競合の問題が緩和したり解消したりするわけではない。

 さらに、政府系の輸出信用機関は通常高格付けの信用力を有しているので、保険・保証を供与する方が融資を供与するよりも経済合理性があるであろう。融資は高格付けの信用力を有していなくとも行うことができるが、保険・保証は高格付けの信用力なしにはできない業務だからである。

)2点目は融資契約書における当事者の観点である。融資契約書の当事者になるのは借主と貸主である。従って、輸出信用機関が融資を供与する場合には、融資契約書の貸主として同契約書の当事者になる。一方、輸出信用機関が保険・保証を供与する場合には、融資契約書の当事者にはならない。保険・保証の供与者(つまり輸出信用機関)は被保証者・被保険者(つまり民間銀行)と別途保証契約・保険契約を締結する。この場合、融資契約書の貸主として当事者になるのは民間銀行であって、輸出信用機関は融資契約書の当事者になることはない。

 この点は実務的には非常に重要である。特にプロジェクトファイナンスの融資契約書は膨大な分量になるので、融資契約書の作成・交渉作業(これをドキュメンテーションという)はかなりの時間を要する。輸出信用機関が融資を供与する場合には融資契約書の貸主として当事者になるので、ドキュメンテーションに深く関与しなければならない。輸出信用機関が保険・保証を供与する場には融資契約書の当事者ではないので、ドキュメンテーションへの関与は深くなくてもいい。一方で、輸出信用機関のスタッフは一般に人員的な制約があるのが現実で、ドキュメンテーションの作業時間は民間銀行のそれよりも長くかかる傾向がある。

次ページへ 世界の主要な輸出信用機関

おススメ!! セミナー『【実践プロジェクトファイナンス】2日間総合パック』

1 2 3 4

, , , , , ,


デロイト トーマツ|インフラ・PPPアドバイザリー(IPA)
ISS-アイ・エス・エス

月別アーカイブ