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【レポート】(全4回)なぜ交通インフラ事業にプロジェクトファイナンスは難しいのかー第3回

2017.04.13 ナレッジ ハブ

ナレッジパートナー:井上 義明


 この点をもう少し説明したい。例えば当該交通インフラ事業がベトナムで行われる鉄道事業だとする。ベトナムの鉄道事業だということは、その事業収入はベトナムの通貨ドン(Dong)ということになろう。ベトナム国内の鉄道に乗車するのに、乗車券の購入を米国ドルや日本円で行うというのはあまり現実的には考えられない(外貨獲得を目的として外国人向けにはあるかもしれないが)。乗車券は通常国内通貨のドンで購入するのが自然だ。そうすると当該鉄道事業の収入はほとんどベトナム通貨ドンだということになる。

 事業収入は1)操業費(含む税金)支払、2)借入金返済、3)配当金支払などの使途に充当してゆく。繰り返しになるが、本事例では事業収入はほとんどベトナム通貨ドンである。ベトナム通貨ドンを他通貨に両替することなくそれぞれの資金使途にそのまま使用できれば、この事業主体にとって為替の問題は発生しない。もし他通貨に両替する必要があるとすれば、この事業主体にとって為替の問題が発生するということになる。理想は為替の問題が発生しないことである。

 本事例を資金使途ごとに見てゆこう。まず、1)操業費(含む税金)支払であるが、これらはベトナム通貨ドンで支払うことに問題なさそうである。ベトナム国内で事業をしているわけであるから、操業費(含む税金)支払などは当然ベトナム通貨ドンで支払うであろう。これらの支払先もベトナム通貨ドンで受領することに異論はないであろう。

 次に、3)配当金支払を先に見ておく。これは事業主体の出資者(株主)に支払うものである。本件出資者の中には外国人や外国法人も存在するかもしれないが、ベトナム国内で事業をする会社からの配当金支払いなのであるから、ベトナム通貨ドンで支払うのはなんら問題ない。外国の出資者はそういうことを承知の上でベトナム事業に出資しているはずである。

 最後に、2)借入金返済である。借入金返済をどの通貨で行うのか。これは当初借入金を行ったときに、どの通貨で借入を行ったかによる。借入金というのは借りた時の通貨と同じ通貨で返済するのが普通である。本事業の収入はベトナム通貨ドンが占めるので、借入金はベトナム通貨ドンで行うことが望ましい。そうすれば、借入金返済もベトナム通貨ドンで行えるからである。

 上記で見てきた通り、事業の資金使途は概ね1)操業費(含む税金)支払、2)借入金返済、3)配当金支払の3種類に大別できるが、事業収入の通貨で1)操業費(含む税金)支払と3)配当金支払は行うことができる。問題となるのは2)借入金返済であるが、これは借入を行うときに借入金の通貨を選ばなければならない。具体的には事業収入の通貨と同じ通貨で借入を行うということである。

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デロイト トーマツ|インフラ・PPPアドバイザリー(IPA)
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