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【レポート】(全4回)なぜ交通インフラ事業にプロジェクトファイナンスは難しいのかー第4回

2017.04.17 ナレッジ ハブ

ナレッジパートナー:井上 義明


3.交通インフラ事業へのプロジェクトファイナンス

 これまでプロジェクトファイナンスの視点で交通インフラ事業の特性を見てきた。「外部経済性の存在」「需要リスク」「土木工事が多い」「新興国での為替リスク」の4つの特性を採り上げた。この4つの特性のうち、「外部経済性の存在」は首尾よくその効果を取り込むことができればもちろん利点となる。しかし、その効果を当該交通インフラ事業者が取り込むのは必ずしも容易なことではない。また「需要リスク」「土木工事が多い」「新興国での為替リスク」の3つの特性はいずれも交通インフラ事業を難しくしている要因である。特にプロジェクトファイナンスの手法で資金調達を行おうと試みると、こういった点が障害となることが多い。

 さて、交通インフラ事業がプロジェクトファイナンスの手法で資金調達を行おうとしたときに、こういった4つの特性に対してどう対処すれば良いのであろうか。なにか対応策はあるのであろうか。以下対応策を見てゆきたい。

〇「外部経済性の存在」への対応策

 まず、「外部経済性の存在」であるが、これは上記の通り利点にも成り得るので特段対応策といったものを考える必要はない。ファイナンスの観点からは当該交通インフラ事業者の自助努力に任せておけば良いであろう。

〇「需要リスク」への対応策

 次に「需要リスク」であるが、これに対する対応策はアヴェイラビリティ・ペイメント(Availability Payment)方式を導入するのが最善である。アヴェイラビリティ・ペイメント方式とは、中央政府もしくは地方政府(以下、政府)が交通インフラ事業者に対し一定の金額を長期間(例えば20年間)に亘り定期的に支払うという方式である。いわゆるPPP事業で頻繁に見られるものである。このアヴェイラビリティ・ペイメント方式が導入されれば、交通インフラ事業者は一定の収入が確保できるので事業の需要リスクを一切取らなくて済む。需要リスクを取るのはアヴェイラビリティ・ペイメントの支払いを行う政府ということになる。

 政府自身が当該交通インフラ事業を自ら推進していたならば需要リスクは政府が取るわけであるから、アヴェイラビリティ・ペイメント方式の導入によって需要リスクを取る主体が元に戻っただけのことである。需要リスクを政府に残しても、民間に交通インフラ事業を推進させる狙いは何か。それは民間による効率的な事業運営である。民間が事業を運営すれば、より良いサービスをより低廉なコストで提供できると期待されている。需要リスクを政府に残したままでも、民間に事業を運営させる利点は少なくない。

 政府が一定金額の支払いを事業者に保証することから、アヴェイラビリティ・ペイメント方式では事業の民営化が不十分だと見る向きがあるが、この批判は当を得たものとは言えない。そもそも交通インフラ事業全般は民間が推進するには適しない事業であるという認識から出発しないといけない。交通インフラ事業は市場が担うには適しない事業で、政府が介入して解決してゆかなければならない分野なのである。もっとも、これまで各国でインフラ事業は政府が操業・運営も含めてすべて担ってきた歴史があるが、事業の操業・運営あるいは資金調達の部分は民間に任せた方が効率的にできるのではないかということから、民営化の流れができた。PPP案件はその現在形である。そして、アヴェイラビリティ・ペイメント方式はPPP案件の中核をなす仕組みである。

 英国、カナダ、オーストラリア等で多くのPPP案件が成立している。プロジェクトファイナンスの手法で資金調達に成功しているかどうかという視点で見てゆくと、プロジェクトファイナンスの手法で資金調達に成功しているPPP案件のうちほとんどの案件がアヴェイラビリティ・ペイメント方式を導入している。アヴェイラビリティ・ペイメント方式を導入しているかどうかによって、プロジェクトファイナンスでの資金調達が可能かどうかが決まると言っても過言ではない。さらにプロジェクトファイナンスを供与する金融機関の視点で見てゆくと、アヴェイラビリティ・ペイメント方式が導入されているPPP案件は優先的に採り上げを検討するが、アヴェイラビリティ・ペイメント方式が導入されていないPPP案件は優先順位を下げるといった融資方針を持っている金融機関が少なくない。その理由は明白で、「需要リスク」が融資を検討する立場からも看過できないリスクだからである。

 なお、アヴェイラビリティ・ペイメントの金額水準であるが、これはどのくらいの水準になるものなのか。理論的には事業に投下した資金の回収(借入元金及び利息を含む)、相応の投資利回り、操業費などを包含する水準になるはずである。もっとも、実務的には民間事業者候補に入札させる際に、このアヴェイラビリティ・ペイメントの金額水準自体を競わせるのが普通である。事業遂行能力を有する入札者(qualified bidders)であることが前提ではあるが、アヴェイラビリティ・ペイメントの金額水準につき最も低い水準で提案をした者に発注するのが政府にとって財政的に理に適っている。

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デロイト トーマツ|インフラ・PPPアドバイザリー(IPA)
東京モデリングアソシエイツ
ISS-アイ・エス・エス

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