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【レポート】(全4回)なぜ交通インフラ事業にプロジェクトファイナンスは難しいのかー第3回

2017.04.13 ナレッジ ハブ

ナレッジパートナー:井上 義明


  事業収入を事業のキャッシュ・イン(Cash-in)とし、1)操業費(含む税金)支払、2)借入金返済、3)配当金支払などの諸種支払いを事業のキャッシュ・アウト(Cash-out)として二分割すると、事業のキャッシュ・インの通貨と事業のキャッシュ・アウトの通貨とをすべて一致させれば事業主体は為替リスクを負うことがない。その際に特段配慮しなければならないのはキャッシュ・アウトの中の借入金返済の通貨である。これは事業収入の通貨と同じ通貨で借入を行う必要がある。

 以上の説明を図解すると次のようになる。

【借入金通貨と事業収入通貨一致のケース】
 最初の図は借入金の通貨を事業収入の通貨と一致させているケースである。視覚的に分かり易いように、通貨を色で表現した。このケースでは事業のキャッシュ・インの通貨とキャッシュ・アウトの通貨がすべて一致している(左右の色が灰色で一致している)。従って、事業主体は為替リスクを負っていない(「為替リスクを負っていない」という意味は、簡単に言えば事業主体は外貨両替の必要がないということである)。

【借入金通貨と事業収入通貨不一致のケース】
 次の図は借入金の通貨を事業収入の通貨と一致させていないケースである。さきほどの事例で言えば、ベトナムの鉄道事業ではあるけれども借入は米国ドルあるいは日本円で行ったというようなケースになる。視覚的に分かり易いように、右側のキャッシュ・アウトのうち借入金返済の部分を異なる色(水色)にした。これは借入金の返済は事業収入の通貨とは別の通貨で行われることを表わしている。

 さて、このケースでは事業のキャッシュ・インの通貨とキャッシュ・アウトの通貨のうち借入金返済部分の通貨が一致していない。従って、事業主体は借入金返済の部分について為替リスクを負っている。具体的には、事業主体は借入金返済の都度ベトナム通貨ドンを売って米国ドルあるいは日本円を買い、そのうえで借入金の返済を行うことになる。この際にベトナム通貨ドンが米国ドルや日本円に対して安くなっている場合には、大きな為替リスクに直面することになる(極端な場合には、ベトナム通貨ドンのベースではいくら返済しても、米国ドルあるいは日本円の借入金残高はなかなか減らない、という事態が起こる)。

 さらに指摘しておきたいのが、右側のキャッシュ・アウトのうち借入金返済部分(水色の部分)の占める割合の大きさである。ベトナム鉄道事業の事例では総事業費のうち7割を借入金で調達すると想定した。プロジェクトファイナンス案件での借入比率としては標準的である。総事業費のうち7割が借入金によって調達されていると、事業のキャッシュ・アウトのうち借入金返済部分が占める割合も自ずと大きくなる。上記の図では右側キャッシュ・アウトのうち借入金返済の部分(水色の部分)がキャッシュ・アウト全体の半分以上を占めているように表現されている。これはけして誇張ではない。総事業費のうち7割が借入金で調達されていると、キャッシュ・アウトの過半は借入金返済になるのが普通である。そうすると、借入金の通貨を事業収入の通貨に一致させなければならないという問題が、実は相対的に大きな問題であるということが分かる。

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デロイト トーマツ|インフラ・PPPアドバイザリー(IPA)
ISS-アイ・エス・エス

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