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【レポート】(全4回)なぜ交通インフラ事業にプロジェクトファイナンスは難しいのかー第3回

2017.04.13 ナレッジ ハブ

ナレッジパートナー:井上 義明


2-4.新興国での為替リスク

 交通インフラ事業の4つ目の特性として、新興国で交通インフラ事業を推進する際に遭遇する為替リスクについて見てゆく。

 交通インフラ事業のニーズは新興国こそ強い。先進国に比べ社会資本の整備が遅れているためである。鉄道、道路、港湾などの整備はその地域の経済発展はもちろんのこと国全体の経済成長を後押しするために欠かすことのできないものである。一方で、交通インフラ事業の推進には多額の資金を要する。中央政府や地方政府の歳入だけでは賄いきれないので、借入を行い資金調達を図ることが少なくない。政府自身が借入を行い資金調達を行うと、国の債務を増やすことになり将来世代の負担を増やすことになりかねない。そこで可能であれば、交通インフラ事業を民間主体に行わせ、資金調達も民間主体に行わせれば国の債務を増やさずに済む。また、民間が交通インフラ事業を推進することによって事業の効率的な操業や運営が期待できる。このような観点から民間主体による交通インフラ事業の推進が注目されている。いわゆるPPP(Public Private Partnership)が企図しているものも同様である。

 さて、ある交通インフラ事業が民間によって推進されることになったとしよう。総事業費のうち3割を事業者の出資金で、そして7割をプロジェクトファイナンスでの借入で調達するとする。ここで問題となるのは7割の借入金をどの通貨で行うかということである。いわゆる借入金の通貨の問題である。この問題は事業主体の為替リスクの問題でもある。

 この交通インフラ事業の事業主体は民間であると想定した。そして、特に操業を開始してからは[*8]、政府はおろか事業主体の出資者からも資金支援はないものと想定する。そういう想定の下で、借入金の通貨はどの通貨にするのが最善であろうか。こういう場合、通常注目するのは事業収入の通貨である。事業収入の通貨と借入金の通貨とを一致させるというのが理論的には正しい。両者の通貨を一致させれば、事業主体において為替(通貨交換)の問題が発生しない。つまり、事業主体は為替リスクを負わないということになる。

[*8]このような例では事業が完工するまでの間は完工保証等事業主体の出資者から財務的な支援を受ける可能性が高い。

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デロイト トーマツ|インフラ・PPPアドバイザリー(IPA)
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