2026.02.26
【コラム】(プロファイバンカーの視座)第190回 プロジェクトファイナンス超入門(54)
2026.02.26 連載コラム
【借入金の通貨の選び方19~属地主義の限界】
前回の要点を整理しておきたいと思います。例1~5は英国、ユーロ圏、カナダ、ニュージーランド、シンガポールなど先進国の発電事業でした。借入金の通貨はそれぞれの国の通貨でした。例1~5だけを見ると、借入金の通貨の選び方は事業の所在国の通貨を選んでいるので属地主義のようでした。一方、例6~10はインドネシア、ベトナム、ウズベキスタン、サウジアラビア、エジプトなど新興国(発展途上国)の発電事業でした。借入金の通貨はそれぞれの国の通貨ではなく、米国ドルでした。つまり、例6~10では属地主義ではないということです。
例6~10の発電事業では、借入金の通貨の選び方は属地主義で決めるわけではない、ということがはっきりしました。では、借入金の通貨はどうやって決めているのでしょうか。それは事業収入の通貨に合わせて決めているということです。数学の等式のように記載すれば、「事業収入の通貨=借入金の通貨」ということです。例1~10のすべての事例について、事業収入の通貨の欄を右端に追記して、一表にしてみましょう。
【借入金の通貨と事業収入の通貨】

これまで見てきた例1~10の事例は実はすべて発電事業だったということを思い起こしてみましょう。発電事業ではPPA(売電契約)において電力代金の通貨を規定しています。例1~5のPPAはそれぞれの国の通貨で電力代金が規定されています。それに対して、例6~10のPPAは米国ドルで電力代金が規定されています。つまり、発電事業ではPPAの規定次第で事業収入(電力収入)の通貨を決めることができるわけです。
先日某企業さんの研修会の講師の仕事をさせていただいたときにも、受講者からこういう質問を受けました。「インドネシア、ベトナムなどのアジアの国で発電事業を検討していますが、事業収入(電力収入)はそれぞれの国の現地通貨になってしまうのでしょうか」という質問です。この質問者はおそらく「事業収入(電力収入)が現地通貨だと都合が悪い」ということを理解したうえで質問しているようでした。私も質問者の質問主旨を察して、以下のように答えました。
「PPAで電力代金を米国ドルで規定すれば、事業収入(電力収入)は米国ドルにすることができます」
「新興国(発展途上国)での発電事業はPPAで電力代金を米国ドルにするのが定石です」
つまり、新興国(発展途上国)で発電事業を行う場合、PPAの交渉において電力代金の通貨の規定を米国ドル(あるいは先進国の通貨)にすることが必須で、これが新興国(発展途上国)での発電事業を成功に導く一つのカギになります。
さて、もう少しお話を進めてゆきたいと思います。例1~10の事例はいずれも発電事業でしたので、発電事業以外の事業では借入金の通貨の選び方はどうなのか、という点を見てゆきたいと思います。次回以降、資源開発事業での借入金の通貨の選び方を見てゆきたいと思います。
(次回に続く)
プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明
*アイキャッチ UnsplashのJan Folwarcznyが撮影した写真
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