2025.11.16
【コラム】(プロファイバンカーの視座)第181回 プロジェクトファイナンス超入門(45)
2025.10.09 連載コラム
【借入金の通貨の選び方10~為替の問題】
前回はケーススタディの豪州風力発電事業について、その事業収入と事業支出の通貨がどうなるのかを具体的に確認してきました。結論をまとめておきたいと思います。事業収入はすべて豪州ドルです。豪州で電力事業を行うなら、事業会社が電力販売代金を豪州ドルで入手するのは当然ですね。事業支出のほうですが、「操業費支払」「借入金返済」「配当金支払」のいずれもが豪州ドルです。もっとも、事業支出のうち「借入金返済」の通貨については、借入を行うときに豪州ドルによる借入金を選ぶ必要があります。ここがポイントです。借入をするときに借入金の通貨は選ぶことができます。豪州ドル以外の通貨で借入を行ってしまうと、「借入金返済」の通貨も豪州ドル以外の通貨になってしまいますので、不都合です。
ケーススタディの豪州風力発電事業会社の事業収入と事業支出の通貨は、どちらもすべて豪州ドルだということを確認しました。これを以下に図示してみましょう。
【豪州風力発電事業会社の収入と支出の通貨 – 借入金が豪州ドルの場合】

上記の図を見ていただくと、この事業会社は事業収入のすべてを豪州ドルで得て、事業支出のすべてを豪州ドルで支払っていることが視覚的に分かりやすいかと思います。ということは、この事業会社は風力発電事業を日々遂行してゆくうえで、銀行で外貨の両替をする必要は一切ありません。この事業会社は外貨両替とは無縁です。従いまして、この事業会社は「為替変動リスク」に晒されていません。「為替変動リスク」はありません。
上記の図について、念のため1点申し添えておきます。それは事業会社が生んだ利益のうち配当金として出資者に支払われなかった、いわゆる「内部留保金」はこの図ではどこに表現されているのか、という点です。プロジェクトファイナンスの借主である事業会社は通常特別目的会社(SPC)ですから、通常多額の内部留保金を保有することは稀です。それでも大きな規模の修繕作業に備えて相応の内部留保をしておくことはもちろんあります。上記の図では「内部留保金」は「配当金支払」の中に含まれているものと解釈してください。もっとも、通常であれば特別目的会社である事業会社の利益のほとんどは、「配当金支払」となるはずです。
上記の図をもう一度よく見てください。ケーススタディの豪州風力発電の事業会社が事業収入の通貨と事業収入の通貨とを一致させるために、事業会社の経営判断として何をしなければならないかという点をもう一度確認しておきたいと思います。
事業収入の通貨がすべて豪州ドルになるのは、豪州で風力発電事業を行ない、豪州で電力を販売しているので当然のことです。また事業支出のうち、「操業費支払」と「配当金支払」の通貨が豪州ドルになることも、豪州での事業なので当然です。ここまでは特に事業会社として経営判断をするほどのことではありません。こういう事実を確認するだけで十分です。注意していただきたいのは「借入金返済」の通貨をどうするかです。「借入金返済」の通貨は事業会社(の経営陣)が正しいものを選ぶ必要があります。そして、既に申し上げましたが、「借入金返済」の通貨を選ぶというのは、借入をするときに借入金の通貨を選ぶということです。この豪州風力発電事業のケーススタディでは豪州ドルでの借入を意識して選択しなければいけません。借入金の通貨選びを間違えると、「借入金返済」の通貨が望ましくない通貨になってしまいます。そうすると、事業収入の通貨と事業支出の通貨を一致させることができなくなってしまいます。借入金の通貨選びのポイントは、事業収入の通貨と同じ通貨にすることです。ぜひこの点をもう一度よくご確認いただきたいと思います(注)。
(次回に続く)
注)
「豪州で行う事業だから、つまり事業を行う場所が豪州だから、借入金を豪州ドルで行う」というふうに理解すると、勘違いを起こすので気を付けてください。敢えてここで応用問題を出してみます。豪州で行うLNG(液化天然ガス)事業の場合は借入金の通貨は何の通貨になるでしょうか。お分かりになる方は少なくないと思いますが、このときの借入金の通貨は米国ドルですね。その理由はLNG事業の収入は通常米国ドルだからです。つまり、「事業収入の通貨=借入金の通貨」のルールで判断するわけです。同様に、豪州内の事業であっても資源開発で輸出向けの事業は(まず)事業収入が米国ドルになるので、借入金も米国ドルにします。そのような実例としては、LNG事業以外に鉄鉱石、石炭などの事業があります(もっとも石炭の新規開発は地球温暖化の問題でいまではほとんどなくなりましたが)。
プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明
*アイキャッチ UnsplashのNathan Andersonが撮影した写真
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