2026.01.08
【コラム】(プロファイバンカーの視座)第187回 プロジェクトファイナンス超入門(51)
2026.01.08 連載コラム
【借入金の通貨の選び方16~為替の問題・属地主義】
前回は豪州風力発電事業のケーススタディについて借入金の通貨はどの通貨にするべきかという問いについて、正解の内容と「解答例2」の内容とを比較検討してみました。「借入金の通貨は事業収入の通貨に合わせる」という正解もけして完全無欠というわけではありません。建設期間の2年については対応を別途迫られます。しかし、幸い為替予約というヘッジ方法が簡単にかつ比較的安価に利用できますので、実務上も頻繁に活用されています。一方、「解答例2」の欠点である「返済期間18年の為替変動リスク」は対応しかねます。致命的と言わざるを得ません。従って、正解と「解答例2」とを総体的に比較評価すると、正解の方に断然軍配が上がります。そして、実務の現場でも「解答例2」(EPCコントラクターへの代金支払の通貨に合わせて借入金の通貨を選ぶ)を採ることはないはずです。
さて、今回は豪州風力発電事業のケーススタディを一歩下がって、大きな視点で観てみましょう。どういうことかと申しますと、「このケーススタディはそもそも豪州での事業なので、豪州ドルで借入をするのは当然なのではないか?」という考え方について考えてみようというものです。この考え方の要点を抽出すると、「豪州の事業だから、借入金は豪州ドルで当然」ということになります。この考え方は借入金の通貨は、「どこの国で事業を行い、どこの国で借入を行うのか」という点に重点を置いた考え方です。ここでは便宜的にこの考え方を「属地主義」と呼ぶことにします。
さあ、みなさんはこの属地主義の考え方は正しいと思いますか。属地主義の考え方が通用する場合と通用しない場合がありそうです。まずはこの属地主義の考え方が通用している事例をいくつか見ておきましょう。
(例1)
例えば、英国で洋上風力事業や洋上風力向けの送配電事業を考えてみましょう。こういう事業で借入をする場合、借入金の通貨はどうするべきでしょうか。英国での洋上風力事業や洋上風力向けの送配電事業向けのプロジェクトファイナンスの実例があります。そういう実例をみますと、借入金の通貨は英国のポンドです。
(例2)
フランス、ドイツ、スペインなどのユーロ圏での風力発電事業や太陽光発電事業はどうでしょうか。借入金の通貨はどの通貨でしょうか。これらの事業にも実例があります。借入金の通貨はユーロです。
(例3)
カナダでの再生可能エネルギーの事業だったら、どうでしょうか。借入金の通貨はどの通貨でしょうか。これらの事業にも実例があります。借入金の通貨はカナダドルです。
(例4)
ニュージーランドの地熱発電事業はどうでしょうか。ニュージーランドは地熱の資源が多い国です。従って、地熱発電事業がかなり存在します。同国の地熱発電事業の借入金はニュージーランドドルです。
(例5)
シンガポールの火力発電事業はどうでしょうか。新設案件もありますが、既存の火力発電所の買収案件もあります。このときの借入金はシンガポールドルです。
上記の事例を下記にまとめておきましょう。
【主要国での事業向け借入金の通貨】

上記の表を見ると、英国の事業だから借入金は英国ポンド、ユーロ圏の事業だから借入金はユーロ、カナダの事業だから借入金はカナダドル、ニュージーランドの事業だから借入金はニュージーランドドル、シンガポールの事業だから借入金はシンガポールドル、というふうに見えますよね。上記の表を見る限り、「どこの国で事業を行うのか」という視点で借入金の通貨を選べば良い、ということになりそうです。つまり、先ほどご紹介した「属地主義」の考え方で借入金の通貨を選んでいる、ということになりそうです。さあ、この属地主義の考え方で常に借入金の通貨を選んで本当に良いのでしょうか。
(次回に続く)
プロジェクトファイナンス研究所
代表 井上義明
*アイキャッチ UnsplashのIlker Ozmenが撮影した写真
【バックナンバー】
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