• Home
  • ナレッジ ハブ
  • 【レポート】プロジェクトファイナンス実務者から見た新興国PPPインフラ事業促進策(小林文彦)

【レポート】プロジェクトファイナンス実務者から見た新興国PPPインフラ事業促進策(小林文彦)

2018.03.24 ナレッジ ハブ

ナレッジパートナー:小林 文彦


5. 具体的な取り組み方

 実は前述したPPP法制度整備の必要性に関する話はあまり新しい内容ではなく、世銀やADBもPPP法制度整備支援などをやってきていますが、未だに実行可能なPPP法制度整備が出来ていない新興国が多いというのが実情です。ベトナムもその一つと言えます。私は2017年3月にベトナムを訪問しPPP関連の政府関係者や国際機関の現地駐在員と面談する機会を持てました。ベトナムでは2015年にDecree 15というPPP法ができましたが、国外の事業者や金融機関も参画した本格的なPPPインフラ事業実現には至っていません。ベトナム政府はDecree 15を改訂中との説明がありましたが、バンカビリティ達成の方策が具体化半ばになっているのではと危惧されました。そこで、PPPインフラ事業促進につき、支援国と民間事業者それぞれにおける具体的な取り組み方について述べて、本稿のまとめとします。

  まず、支援国の立場からの具体的な取り組みとして考えられるのは、特定国でPPPインフラ事業のパイロットプロジェクトを支援機関の職員と外部専門家からなるタスクフォースにより相手国政府を支援して実施することです。特定国の要件としては、

(1)PPPのニーズがあり、政府内部でPPPへの理解度が高い。
(2)当該支援機関が長年活動を行っていて相手国政府から大きな信頼を得ている。
(3)当該支援機関現地事務所でPPPへの理解度が高い。

などが挙げられます。

 対象案件は巨額の新規資金が必要な高リスクのグリーンフィールド案件ではなく、低リスクのブラウンフィールド案件、すなわちすでに完成していて収支予測の基礎データが十分にある有料道路や橋等の運営を民営化するコンセッション事業実現を支援することです。これにより、これまで机上の空論になりがちだったPPP法制度整備と相手国政府の能力強化について実際の案件を推進しながら作りこんでいく機会を提供できます。また民営化時にコンセッション事業権譲渡対価の収入が期待できるかもしれません。

  民間事業者においては、新興国PPPインフラ事業という今後増大が予想されるビジネスチャンスを積極的に取り込む為に、JICA協力準備調査(PPPインフラ)やIFC Infraventuresなどの各種支援プログラムを活用しての案件形成努力を粘り強く行うことをお願いします。既に述べた様にPPPインフラ事業案件の実現には当該国の各種法制度整備や政府の能力強化が初期段階で必要になる場合が多く、その促進の為に国際機関や日本政府の支援を有機的に活用することも選択肢に入れて頂きたいと思います。

 さらにSPCの組成にあたっては、プロジェクトの各ステージで必要とされる専門性の違いを考慮して、各社の競争力のある分野を最大限に生かした取り組みをお願いしたいと思います。PPPインフラ事業の参画企業としては商社・EPCコントラクター・運営事業者・コンサルタント・インフラファンドなど様々な業種の企業があります。それら各企業がプロジェクトの特性に合致したVFMの最大化実現ができる形態で連携することが必要です。例えば、グリーンフィールドのPPP高速道路プロジェクトの場合、高速道路建設工事が事業の初期に必要なため建設会社がSPCの主体となることがあります。しかし、ブラウンフィールドの場合は、既に建設されている高速道路の民営化となる為、運営事業者がSPCの主体となる場合が多くなると考えられます。ここで付記したいのは、民間事業者であるSPCの株主構成は変更があり得るということです。当然コンセッション契約やプロジェクトファイナンスの契約書類に於ける株主変更制限条項の範囲内となりますが、その範囲内でプロジェクトファイナンスのノンリコース性を十分に活用し、相対やセカンダリーマーケットでの株式売却も含めた進化する株主構成を選択肢に入れた取り組みを考慮することで参画企業の裾野が広がると考えます。

【関連記事】
【レポート】カナダにおけるPPPマーケットの概況について
【レポート】(全6回)輸出信用機関(ECA)とプロジェクトファイナンスー第1回
【レポート】(全4回)なぜ交通インフラ事業にプロジェクトファイナンスは難しいのかー第1回

1 2 3 4 5

, , , , , , , , , , , , , , , , , ,


デロイト トーマツ|インフラ・PPPアドバイザリー(IPA)
ISS-アイ・エス・エス

月別アーカイブ